美人な部下を持てて幸せです。
「あの、殿……」
「ん、なんじゃ、この世の終焉を見たかのような顔は?」
「あの……俺こういうの初めてなので、出来れば痛くしないでください……」
「……? なんの話じゃ?」
何の話かって? もー惚けちゃって、冗談がすぎるぜぇ信玄公。
つ・ま・り、俺はとっくに覚悟は出来てるってことだよぅっ! ウケでもタチでもどっちでもいい! この悪夢を今すぐにでも終わらせてくれっ!!
「一体何を悶えておるのですか? 山本晴幸様」
「…………うえっ!? お、女ッ!?」
これから始まる諸事情への覚悟を固めた矢先、女の子が急に天井から落ちてきた。
動きやすそうでいて妙に露出度の高い服装、布で目元以外を隠した面持ち──間違いない、この女は……っ!!
「安心してください晴幸様、私は敵ではありませ──」
「スゲー! 本物の『くのいち』だ!! やべえ、スゲェー!!!」
「…………あの、聞いてますか、晴幸様?」
突如現れたくのいちにテンションマックスになる俺。
くのいちってマジでこんなエロい服を着て活動してるんだな! あんなのアニメやゲームの中だけだと思ってたぜ。
「まったく、普通に入り口から入って来い、千代女よ」
「と、仰せられますが、一応男用の厠ですし、入り口から入るのは女として抵抗がありまして……」
頬を赤らめ、その場にひざまづく彼女に信玄公が苦笑した。
「驚かせてすまぬな、晴幸。この女は千代女、ワシの乱破(忍び)じゃ」
「やっぱりそうでしたか! やっぱり忍さんですか!」
「そ、そうじゃ。お主を厠に呼んだのは、人目につかぬ場所で千代女に会わせたかったからでな……」
「なるほど! 本物のくのいちに会えるなんて感激ですよ! ハイッ!!」
「く、くのいち……?」
テンションの違いにドン引き状態の信玄公と千代女さん。
現世で色々とお世話(意味深)になってたからね、コスプレじゃない本物を間近で見ることになるとは感無量。
あぁ、スラリとした長い黒髪に忍の癖して無防備な胸元、ムチッとした太股の曲線美、そして目元だけで美人ってわかる妖艶な雰囲気、これぞまさに皆が理想とするザ・クノイチだ!
「まぁよい。千代女よ、何故、ワシがお主を呼んだのか分かっておるな?」
「はい、心得てございます、御館様」
興奮冷めやらぬ俺に対して、千代女さんがマジマジと見つめてきた。
そ、そんな可愛い顔で俺のブサ面をガン見するんじゃない! 止めてくれ、くのいちさん! 女の子どころか男にすら顔を逸らされて生きてきた俺にその表情は効きすぎる、止めてくれっ!!
「では、この者に例の土地を与えるのですね?」
「そうじゃ、不服か?」
「……いえ、畏まりました」
千代女さんがマスクを取って上目遣いに微笑んできた。思った通り、俺のストライクゾーンど真ん中、超絶美人さんやんけ。
「これより、私は貴方の部下となります。よろしくお願い致たしますね、晴幸様」
「え……あ……は……は、はひぃ……っ!」
なんていうのかな。
可愛い娘に話しかけられたとか、見つめられちまったとか。例の土地ってなんの話なのかとか。なんでこの娘が俺の部下になるんだとか。そういった疑問が押し寄せてきて。
「でじゃ、本題の築城のことについてなのだが」
「あの、御館様……」
「ん? なんだ、千代女??」
「晴幸様が……その……気絶してます」
「な、なんだと!?」
文字通りパンクした、まともな思考どころか頭も真っ白昇天しそうだぜ。
まぁ、難しいことは後でゆっくり考えるとして、今はただ、千代女さんの笑顔を忘れないように、しっかり眼に焼き付けることだけを考えることにする。うん、そうしよう。