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金比羅山をいざ進め。




 上原城・金毘羅山(こんぴらさん)の山中、武田軍別動隊を率いることになった俺は、本軍より北に大きく迂回しながら行軍。二百人という少数で動いていた為か?上手いこと敵に見つからず諏訪軍の本拠地、上原城のある金比羅山に到着した。

 山の中腹と頂上に塀やら矢倉が見えることから、普段当主は中腹のの屋敷に住み、戦になれば頂上の本丸に移動する。上原城は典型的な戦国時代の山城なのだろう。

 

「ぜぇ……はぁ……、やっと、城が見えた……ッ!」


 獣すら通らない山の中を進む二百人余りの武田別動隊。山登り開始から一時間半、目標の上原城をようやっと視界に捉えた。

 山に囲まれた土地で生まれ育ったからなのか、戦国民だからなのか。武田兵は急な悪路だろうが苦もなく登り、俺は城攻め前に全身汗だくとなっていた。

 山を歩くのは温泉発掘で慣れたと自負していたが、重い防具やら槍を持っての移動は初老一歩手前の俺にとってかなりキツイ運動である。

 

「かなり城に近付きましたね、このまま一気に攻め入りましょう」

「…………ぼくはもう覚悟出来てる」

「いや待った! せ、攻めいる前に休憩を取ろう! 疲れてる状態で戦うのは厳禁だから……!」


 俺の休憩宣言に一部の男達から「えぇ~」という嘆息が漏れだした。もしかして疲れてるのは俺だけなのか? なんでみんな不満そうなんですか?? 


「ふん、休みたければ休むがよい。俺が代わりに城を攻めてくれよう!」


 俺と千代女さんの間に割って入ったのは、武田家の筆頭家老にして重臣中の重臣、甘利虎泰さんその人であった。


「信方から聞いたぞ、この前の先達での小競り合いが初陣だったそうではないか。城攻めの指揮は俺に任せてお主は影から見ておればいいだろう」

「え! マジっすか!? それじゃあお願いしま……」

「冗談も程々にしてください! 虎泰様!! たとえ筆頭家老だとしても指揮官を軽々しく代えては兵の士気に関わります、兵の士気がどれ程大事なものか、それが分からぬ虎泰様ではありませんよね?」

「あ、いやすまぬ、千代女。俺が悪かった……」


 可憐な美女に怯んでしまう大男の図、武田家筆頭家老を黙らせてしまうなんてさっすが千代女さん。


(うぅ、俺的には一刻も早く指揮権を譲りたいんだけどなぁ……)


 俺の為に弁を奮ってもらって悪いが、千代女さんに俺の希望を見事に打ち砕かれちまった。


「む、どうやら戦が始まったようだな」


 虎泰さんが呟くと、山の麓の方から法螺貝の音と鬨の声が耳に入ってきた。木々が邪魔で見えないが、麓では想像絶する激戦が繰り広げられているのだろう。


「始まりましたね、私達も早く城に向かいましょう」

「そうだな、下で戦いが起こったということは城内の兵は少ないということ、案外楽に城が落ちそうだ」

「…………あれ、でも先に休憩するって……」

「『兵は拙速を尊ぶ』といいます。兵士達に疲労は見られませんし、今は行動あるのみですよ」


 疲労は見られませんって、指揮官の俺が既に疲労困憊なんですけど。


「いやいやいや、源ちゃんも本当は疲れてるだろ? 何か言ってやってくれよ」

「………………ねぇ、この先にはなにがあるのかな?」


 と、源ちゃんにすがるような思いで助けを求めたが、当の本人は城とは関係のない雑木林を指差した。


「この先って、特に何も無さそうだけど……なんで?」

「…………この先が道みたいになってるから、人が通るのかなって」

「確かに、微かにですが人が通った形跡がありますね。しかも頻繁に通ってるようです」


 どうやら源ちゃんの勘違いではなさそうだ。こんな獣しか通らないような雑木林に道……それって──


「搦め手に通じる道、ってことですか……?」

「ほう、城取(築城)に長ける者の部下だけあるな。搦め手の道を見つけるとはやりおるな小童こわっぱが」


 虎泰さんがニヤリと笑う。

 『搦め手』とは城の裏側にある門で、緊急時には城主が脱出するときに使われる通路のことだ。

 

 基本的には敵に目立たない場所に作られることが多く、城の裏側に作られる為に少数の兵士でしか守らない事が多い。

 とすれば、少数の俺達が侵入するにはうってつけの場所である。


「ふん、どうやら策は決まったようだな」

「搦め手より城に入り一気に本丸を落とす、少数の我々が取るべき最善策かと思います」


 この流れは非常にマズイ、俺以外の全員が今すぐ城攻めに行きたいオーラを放ってやがる。

 

 くっ、そうはさせてたまるか! こちとら一時間以上の休憩が無いと作業効率が極端に落ちる体質なんだよ!! こうなりゃ指揮官権限で何としてでも休憩をとってやる。


「いや、まずは休憩がてら作戦を練ろう! 千代女さんは城に忍び込んで情報を集めて、俺と甘利様で城攻の策を考えるから!!」

「は、はぁ……確かに内情を知らずに攻め込むのは愚策ですね。分かりました、城内の情報を集めてきます」

「ふん、城攻めの策など乗り込む以外にあるのか?」

「ありますとも! 少数で攻めるなら尚更必要です! 例えば兵を俺と甘利様とで二つに別けて、二方向から攻めれば油断してる敵なら混乱するはずです」

「なるほどな……敢えて攻め口を増やすのか、面白い」


 俺の説得に千代女さんは頷き、虎泰さんは皆朱の槍を研ぎ始めた。よしっ! なんとか厄介な二人を言いくるめてやったぞ!! 俺って弁舌の才能があるんじゃね?


「で、他には策はないのか?」

「え、えぇと……他にですか……」


 他にって言われても、『囮になった部隊が暴れてる隙に搦め手から侵入して本丸を落とす~』みたいな作戦しか思い付かないんだが……。いいや考えろ俺、大河ドラマとかでよくある落城シーンを思い出せっ。


「では、四半刻(三十分)以内に戻ります。それまでに突入の準備を」

「あ、千代女さん! 可能なら城内に潜入したら探して欲しいものがあるんだけど」

「探して欲しいもの?」

「戦を早期に終わらせる作戦を思い付いちゃって、それに必要なんだ」


 たった今思いついた城を早く落とす作戦。

 それは子供の頃から見てた大河ドラマの城攻めにはつきもののシーンを真似しただけの実に単純な作戦なのだが、この時の俺は内心『咄嗟なのに完璧な作戦を思い付いてやったぞ!』と、すんごい有頂天になっていたのでした。

 

 

 

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