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後の弾正。



「申し遅れました、私は『元』村長・春日(かすが)大隅(おおすみ)の娘『(ゆき)』と申します」

「……………………(こくり)」

「よ、よろしくお願いします」


 今度は丁寧に、幸ちゃんが俺達に平伏した。

 まだ安心するな俺、幸ちゃんの手には苦無が握られているんだ、下手に興奮させたら無駄な血が流れることになるぞ……っ!


「ほら、源ちゃんも新しい代官様に挨拶して!」

「………………か、春日……源五郎(げんごろう)…………です」


 源ちゃんこと、源五郎が消え入りそうな声で名乗ってくれた。

 てか名前的は完全に男の子だよな……外見だけならどう見ても根暗幼女にしか見えないんですがそれは。


「あのさ、源五郎君は男の子で良いんだよな?」

「勿論ですよ、こう見えても春日家と黒駒村の村長を引き継いだ男子ですから! 姉ながら自慢の弟なのですよ、源ちゃんは!」


 自慢気に平らな胸を張る幸ちゃんと、そんな姉の背に隠れる源五郎君。ぶっちゃけ見た目そのままで性別が逆でも違和感無いぞ、この姉弟は。


「なるほど、春日大隅様の……」


 千代女さんの表情がみるみる暗くなり、俺の耳元に顔を近づけてきた。


「晴幸様、少しお話が……」

「はい? 何でしょうか千代女さん」

「実は、二人の父親であります春日大隅様は先達城の城取(しろとり)に従事しておりまして……」

「…………もしや、幸ちゃん達のお父さんが戦死したのって」

「はい、先達城の戦死者報告に彼らの父の名がありましたから……」

「…………マジっすか」


 なんてこったい! つまり、二人の父親さんの死には俺が大きく関わっていたってことだ。

 何が『乱世の被害者』だよ! 他人事みたいな言い回してるけど、城造りを指揮してた俺は間接的な加害者じゃねーか!! なんかもうごめんなさい! 二人の人生を狂わせちゃって本当にごめんなさい!!

 

「大丈夫ですか代官様? 何か悪いものでも食べましたか??」

「……………………?」

「い、いやいや何でもないよ! 何でもないからね心配しなくていいからね!」


 言えねぇ……。


「親父さんが死んだのは俺がやってたお城造りが原因なんですよ~」なんて口が裂けても言えるもんかよ。


 こんな無垢そうな姉弟に真実を告げてみろ、五秒以内に二人の喉に苦無が刺さってるだろうぜ。


「ちなみに、御館様からは村人は全滅したと聞いていたのですが、お二人以外にもまだ生存している方はいらっしゃるのですか?」

「いいえ、皆流行り病でバタバタと死んじゃって、この村には私と源ちゃんだけだから全滅と言っても過言では無いですけど」

「そうだったんですか……心中を察し致します」


 住人が誰もいない村の長になって、更に父親が亡くなった原因が新しい代官か……なんかもう可哀想すぎる。


「とりあえず、これから頑張って村を再興していこうな、幸ちゃん、それと源ちゃん」


 この二人に関しては俺が責任をもって守ってやらなければ、それがせめてもの罪滅ぼしだ。


「はいっ! ふつつかものですがよろしくお願いします!」

「………………(コクり)」


 うぐっ、二人のピュアな視線に心が痛む。

 過ぎたことは考えるな、今は別の事を考えるべきだ。そう例えば、春日大隅って人はどんな感じで村を治めていたのかとか──ん、春日?? なんかどっかで聞いたことがあるような……。

 それに、さっき弟の源ちゃんは『源五郎』って名乗ってなかったけ……? 


『春日源五郎』って、すげぇ聞き覚えのある名前なんだけど。


「ちょっと待ってくれ源五郎君、よく顔を見せてくれないか?」

「────ッッッ!?!?」

「良いじゃない源ちゃん、新しい代官様がせっかく顔を見たいって言ったんだから、恥ずかしがらずに、ね!」


 幸ちゃんの協力の元、俺は嫌がる源五郎君の髪を上げてみた。顔を覗かれる恥ずかしさを目を閉じて必死に堪えてる源五郎君。

 なんだろうこの背徳感……何かこう……アレだな……。


「よもや、晴幸様も衆道に目覚めましたか?」

「あぁ、こりゃヤバイっすね」


 見目麗しいとかいう次元じゃねぇ程の美少年、てかもうリアル男の娘が潤んだ瞳で見つめているではありませんか。こりゃ信玄公もラブレター送るのも納得だ(※ラブレターの相手については諸説あります)。


高坂(こうさか)弾正(だんじょう)……こんなところで会えるなんてなぁ」


 俺は源五郎君の素顔を見て確信した。


 春日源五郎、通称を高坂(こうさか) 弾正(だんじょう) 昌信(まさのぶ)

 この無口で気弱そうな少年こそ、後に武田四名臣の一人に数えられ、退却戦の巧みさ故に『逃げ弾正』と信玄公から評された武田家屈指の名将、その人であると。




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