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面接開始。



「え……なに、これ……?」

 

 気がつくと、俺は見覚えのない大広間に座っていた。

 

 何故か広間の中央で。

 何故か小汚ない茶色の袴を着て。

 何故か屈強な男共が俺の背後で並んで座り。

 何故か皆から怪訝な顔をされている。


「お主が信方(のぶかた)の言う『城取り』に長けた者か?」

「左様でございます、御館様」


 深紅の素襖(すおう)を纏った凛々しい若者が上座に座り、俺の隣にいる武骨な老人が平伏する。な、なんだこれ、時代劇かなんかか??


「お主、名は何と申す」

「えっ? お、お主って、俺?」

「そうだ、お主の名だ。他に誰がいる?」


 唐突に、上座の若者から話し掛けられた。

 何がどうなってんだ、まったく状況が読めんぞ……。


「えっと、それは……」


 落ち着け……落ち着け……ここに着た経緯を思い出せ……っ!

 えっと確か、サイトを見てたら変な広告を見つけて、それにアクセスしたら光に包まれてここに来たんだよな……。


 うん、経緯を思い出してもまったく訳がわからねぇぜ!


「どうした? 自分の名を忘れたか?」


 と、状況を理解できてない俺に若者が薄ら笑った。


 つーか、なんだコイツ、明らかに俺より年下のくせして妙に目付きは鋭いし態度がデカイな。


 まったく、最近の若い奴等は礼儀が無い。ここは一つ「人に名を聞くときはまず自分から名乗るもんだ!」ってバシッと言ってやらねば!


「あ、えーと。山本晴幸です……」


 なんて言うわけもなく、普通に名乗った。


 決して若造にビビったわけじゃないぞ、俺は争いを好まない空気の読める優しいおっさんだからな。場の空気を悪くする発言はしたくないのだよ。

 まぁそれに、こう見えて昔は剣道をやってたから(小学三年で辞めちまったが)若造だろうが『武器さえあれば』負ける気はしないがね、ハハハ……。


「山本『晴』幸だと……? お主もワシと同じく(さき)の将軍様より偏諱(へんき)を賜ったのか?」

「え、い、いや、偏諱とかじゃなくてそれが本名です、ハイ……」

「ほうそうか、将軍の(いみな)を子に名付けるとは恐れ多いが、面白きことをする親だな」 


 高笑いする若者に俺は首を捻る。

 前の将軍? 偏諱? さっきから何を言ってるんだ、この若者は……??


「少し脱線したが、早速本題に入ろうではないか」

「は、はぁ……本題、ねぇ」


 本題よりも状況を説明してもらえないものか。

 俺の反応を他所に、若者は続く言葉を発した。


「山本晴幸、お主、我が『武田家』に仕えてみる気はないか?」

「……………………………………………………はぁぁああっ!?」


 若者と隣の老人を除いて、大広間に居る全員がどよめいた。

 え、今武田家って言ったか!? 「仕えてみる気は」って、えぇ!? 一体どういうことだってばよ!!


「御館様っ! このような素性も怪しい牢人(ろうにん)風情を召し抱えるなど正気でございますかっ!?」


 騒然とした大広間に、突如、虎の如き咆哮が響き渡った。

 声の発生源は、俺の真後ろにいる虎髭を蓄えた筋肉だるま、間違いない、絶対脳筋だこの男。


「騒ぐな、虎泰(とらやす)! 殿の御前であるぞ」


 俺の隣にいた老人も、大男に勝るとも劣らない声量で一喝した。そんな二人に若造は「よいよい」と手のひらで二人をなだめる。


「別に素性など気にせぬ。才能があれば受け入れるのみよ」

「し、しかし! それでは当家に間者が入り込むやも……」

「もし間者ならば切り捨てれば良い……そうであろう、虎泰?」

「そ、そうでございまするが……」


 凛として堂々と、若者は言い放った。

 その言葉に大男も押し黙り、周囲のざわめきも収まる。


(虎泰……まさか……)


 今までずっと現状を把握出来てなかったが、俺はここで、若者の発言で、ここに来る前にパソコンで見た広告の一文が頭によぎった。

 

 ──戦国時代で働いてみませんか?──


 本当にそうなのか? そんな夢のような話があるのか? でも確かに、さっき「我が武田家に仕えてみないか?」って言ったよな。それに隣の老人の事を『信方』と言い、後ろの大男を『虎泰』と言った。

 どちらも、武田に仕えた譜代の重鎮の名前である。

 なら、今俺が話してるこの若者って、まさか──


「あの、一つよろしいですか……?」


 心臓が高鳴り、物凄い速さで血液が全身を巡る。


 ──そんな訳が無い。

 ──あり得ない。

 ──何かの冗談だ。


 そんな自問自答を脳内で繰り返し呟きながらも、俺は恐る恐る若者に問い掛ける。


「……ここは何処で、あ、貴方は誰ですか?」

「……な、なに?」


 俺の可笑しな質問に動揺した若者は、平伏する老人に冗談ぎみに言う。


「信方よ、お主はこの者に何も告げずに此処へ連れてきたのか?」

「そ、そんな筈は……事前に我らの事と用件を伝えてございます」

「…………そうか。よかろう、ならばもう一度名乗るとしよう」

 

 若者は「こほん」と咳払い、俺と目を合わせた。


「ここは甲斐国(かいのくに)躑躅ヶ先(つつじがさき)古城(ふるしろ)にて。ワシは甲斐守護、武田家の現当主・大膳大夫(だいぜんだいふ)晴信(はるのぶ)じゃ」


 俺は文字通り腰を抜かした。

 四十年生きてきたが、これ程の衝撃は産まれて初めてだ。

 だってそうだろ? 俺が今話してる相手は戦国好きなら誰でも知ってるあの名将で──俺の憧れの武将なんだから。

 

「武田……信玄……公……?」

 

 武田晴信、通称を武田信玄。


 この若者こそ、後の世に『甲斐の虎』と恐れられた戦国大名である。


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