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山本晴幸、40歳 無職。


 とりあえず、小説一冊分は投稿します。





「はぁ……また面接に落ちちまったよ……クソが」


 西日が差し込むアパートの一室。

 俺、山本晴幸(やまもとはるゆき)は先日面接した会社から届いた『不採用通知』を紙屑で一杯になったゴミ箱に投げつけた。


 もう何度面接で落ちたことやら、考えたくもない。


「やっぱこの歳で再就職は無理、か」


 リストラにあって半年、職を見つけるどころか貯金も残りわずか、家賃を納めることすらままならない。

 

 バイトでなんとか食い繋いでいるが、それももう限界だ。

 

「まぁ、就職出来ないのは歳のせいもあるけど……一番の問題はこの『顔』と『身体』だよな……」

 

 テーブルに置かれた鏡を見つめ、自分の容姿に溜め息を漏らす。

 

 背が低く肌は色黒で、切り傷や縫い傷、無数の(あざ)があるヤクザのような顔立ち。それが長年連れ添ってきた俺の身体。


 もちろん、身体の傷は幼少期の事故が原因であり、産まれた時からこうだったとか、元々ヤクザだったからとかではない。


 むしろ虫も殺せないほどの心優しい性格の持ち主だ。


 当然、この顔と身体のせいで女性経験も皆無。チビで童貞で失業歴あり、これといった資格もないヤクザ顔のおっさん。


 こんな人材を欲しがる企業が存在するのだろうか? たとえ俺が面接官でも見なかったことにするであろう不良物件だ。


「顔が良ければイージーモード、まさにその通りだよな」 


 せめて顔さえ良ければ面接受けも幾らかマシになっただろうが、考えても虚しいだけ。自分の容姿に関しては諦めてるし、嘆いていても職に就ける訳でもない。


「今日は職を探す気も失せたな……今日はもう『覗いて』寝るか」


 やるせない気持ちで一杯になりながらも、俺はパソコンの電源を付けた。

 チビで童貞でヤクザみたいな顔をしたアラフォーおっさんの俺にも趣味の一つぐらいはある、それがこちら。

 

 『戦国武将逸話まとめサイト』


 全国各地、ありとあらゆる戦国武将の逸話が掲載されたまとめサイトを閲覧し、武将の生き様や歴史秘話を調べることが俺の趣味であり生き甲斐。

 そう、俺は無類の戦国大好きなおっさんなのだ!

 

「お、更新されてる!」


 今日もまた、名も知れぬ住人達が戦国武将達のマニアックな逸話をサイトに投稿している。俺はその一つ一つをじっくり読み耽り、武将達の新たな一面や武勇伝に涎を垂らすのだ。


「はは、やっぱり面白いなぁ、戦国って」


 時間も忘れ、更新された逸話を新しい順にスクロールしていく。

 元々両親が日本の戦国好きで、親の影響をもろに受けた俺も自然と戦国史が好きになっていた。


 俺の名前『晴幸(はるゆき)』も武田家に仕えた武将『山本勘助(やまもとかんすけ)』の本名が『晴幸』だからって両親がつけたものだし、俺が戦国時代を好きになるのは必然だったといっても過言ではない。


 まさか、事故で外見も山本勘助本人みたくなるとは思ってもみなかったが……。


「はぁ……良いなぁ、戦国時代」


 画面に表示された数々の逸話を見つめ、戦国時代の空想に浸る。


 俺が大名なら、どんな国を創ろうだとか。

 俺が武将なら、戦場でどう戦ってやろうだとか。

 俺が軍師なら、兵士をどんな風に指揮してやろうだとか。

 俺が商人なら、現代知識を駆使して大儲けしてやろうだとか。

 俺が農民なら、どうやって成り上がってやろうだとか。


 子供の頃からそんな妄想をするのが大好きで、大人になった今でも、これからも辞められそうにない至福の一時だ。


「現代で就職出来ないなら、いっそのこと戦国時代にタイムスリップでもして何処かの大名に仕官してぇなぁ~」


 なんて、叶うはずの無い願いを呟きながら、サイトの一番下まで読み終えたときだった。


「…………ん、なんだこの広告?」


 それは、初めて見る広告だった。

 他の広告に混じってひっそりとしながらも、その内容に思わずマウスが止まる。


 ──貴方も、戦国時代に行ってみませんか?──


「なんだよ、この広告……」


 よくある誘導広告の類い。けど、書かれてる文字から不思議と目が離せない。何故かは分からないが、本当に戦国時代に行けるんじゃないかって期待してしまったのだ。


「ま、まさかそんなわけ無いよな……」


 恐る恐るその広告をクリック。名前やら生年月日なども入力完了して次に進んだ。新手の誘導広告ならすぐに戻ればいいなんて、その時は安易に考えていた。


「どうなることや──うおっ!?」


 たが、突然目の前が真っ白になるや、女性の機械音声が頭の中に流れてきた。


『──適合する武将が見つかりました──』


 無機質で淡々とした意味不明な言葉が脳内に響き渡った直後、俺の視界は黒く染まっていった。



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