6 健全な魔力は完全な肉体に宿る
「し、死ぬ……」
「大袈裟だな」
ばたりと仰向けに倒れるユノを見下ろしながらクスクスと笑うベネッサ
「こんなの初歩中の初歩だよ」
「む、無理です、もう魔力でない……」
「まぁ、そろそろ時間だし、今日はここまでね、これは時間がある時はやっといてね」
「こんなんで強くなれるんですか、もっと簡単な裏技とかないんですか」
この数時間やっていたのはひたすら魔力を練り体の周りに纏わせると言う方法だった。
しかしこれがかなり大変で、今のところ5分が限界で、その状態で一歩踏み出そうとするとすぐに消えてしまう。
こんなことで本当に強くなれるのかとなんとなく聞いてみると
「……強くなるのに近道はないよ、努力なしで得た力なんてねとても脆くて危うげなものなんだ、それはいざという時には絶対に全く役に立たないものだ、覚えといてこれは忘れたらダメだ」
さっきまでの笑みは消え真顔でユノに告げるベネッサ。
「わ、わかりました」
「うん、わかればよろしい、はい、30分休憩したら次の先生くるから、よろしく、死なないように気をつけてね」
そう言ってまた一瞬でどこかへ消えて行った。
「まぁベネッサはあぁ言ったけど、いざとなれば僕が止めに入るから大丈夫だよ」
スピーカー越しにミロの声が部屋全体に響くが返事する余裕はなかった。
☆
30分後にやってきたのは赤髪の男。
「よぉ、次は俺だ、とりあえず俺はお前の体を鍛えてやる、戦い方はそれからだ」
それから男の作り出した肉体改造メニューを聞いたユノは顔を青ざめた。
「ぁ、ぁぁ……」
——それからどれだけの時間がたったであろう。
口の中にの水分はなくなり声が枯れて上手く発声できない。
「ほんっとだらしねぇな、この程度でくたばるなんて」
おかしい、この男本当におかしい、ユノの二倍のメニューをユノより早く終わらせてしかも息切れ一つ起こしていない。
「まっ今日はこんなもんか、っていうかお前動けるか?」
「む、無理です」
枯れた声でなんとか否定すると男は「待ってろ」と一言残し扉の先へと行ってしまう。
怒らせてしまったかと心配になりながらも、動けないので待ってると男が戻ってきて右手には水が入ったコップ。
「ほらよ、これでも飲め」
「……中には」
「変なもんは何も入ってねぇよ!」
ムッとした顔で答える男。
わざわざ持ってきてくれたのに疑ってしまった自分を恥じる。
「疑ってすみません、いただきます」
飲むと体全体に冷たい水が行き渡り先ほどまで疲れ切った体を癒す。
「今日、これ以上はキツそうだな」
「で、できます!」
「無理して体が壊れたら意味がない、しばらくは俺とベネッサのメニューだけこなして、少しずつ他の3人のメニューも取り入れるって感じにする」
「アザゼル、君はいつからそんな優しくなったんだい?」
ミロの声が部屋全体に広がる。
「あぁ!? 別に優しくなんかしてねぇよ、これくらい普通だろ」
「素直じゃないね」
「殺すぞ!」
「やってみなよ、返り討ちにしてあげるよ」
「おもしれぇ!」
アザゼルと呼ばれる男は怒鳴り声をあげながらミロがいるであろう部屋へと向かっていった。
ユノの中でアザゼルは怖いけど優しい人となった。
しばらくは毎日投稿出来そうです。