5 忘れられた城
突然何もない空間から現れた人間たちの登場にユノは思わず驚く。
「はっ、お前中々言うじゃねぇか」
八重歯を光らせ猛獣のように笑いながら赤髪の男が言う。
「とても青臭いねぇ若いねぇ、おじさんには眩しいよ」
フードを脱ぎ男が髭をさすりながら笑う。
「そうだね、僕達にはもう残ってない感覚だね」
白衣を着た青年がメガネをくいっと上げつぶやく。
「……」
闇のような黒い鎧を着た金髪の女性は無言でユノを睨む。
「歓迎するよ、ユノ、ここは人に歴史に忘れられし城、ようこそ忘却城へ、今君は英雄への一歩を踏み出したんだ」
「————!!」
体全体に電流が走ったかのように震える、心臓の鼓動がうるさい。
「では早速修行に移ろう」
「まぁ、まずは休息と食事が必要だ、そういうのは明日からでいいんじゃないかな?」
目を光らせるベネッサに白衣の青年が止めに入る。
「なんだい、ミロ、今いい所だったのに」
「その調子じゃすぐ壊れちゃうよ、この子はまだ子供だ」
ミロと呼ばれる白衣の男はユノに近寄り頭を撫でる。
「椅子に座って、今から何か作ってあげる、そしたら君の部屋へ案内してそこで眠るといい、必要なものがあったら僕にいいな、明日から君は修行に入るから今のうちに体力は回復したほうがいい」
よくよくわからないうちに話は勧められていくが、とりあえず歓迎されてあるということはわかったのでお礼を言う。
「ありがとうございます」
「僕はミロ、よろしくねユノくん」
とても優しそうな青年だとユノは思った。
そして案内された部屋で出された料理を一口食べる。
————そこで意識が暗転する。
「……ぅぁ、あれ、ここは?」
ユノが目を冷ますと、そこは何もない広い無機質な空間でそのど真ん中に倒れていた。
「やぁやぁ、起きたかな?」
部屋全体に声が響くがその姿は見えない。
よく見渡すと部屋の天井にスピーカーと監視用の魔水晶が取り付けられていた。
「ミロ、さん?」
「すまないね、料理に少し薬を盛らせてもらったよ、けど、どうだい、疲れはとれただろ?」
たしかに体を軽く動かしてみるが疲れや怠さが全くなく逆に普段より体が軽くも感じる。
「あらゆる肉体疲労を癒すことができる薬なんだけど、副作用として強烈な催眠作用があったんだよね、催眠って言っても君が寝てたのはたった24時間だから気にしないで、まぁそこは改良余地があるということで、ありがとう、いい実験結果がとれた」
「……そのためだけに僕に薬を飲ませたんですか?」
「何を言うんだ、君を癒してあげようとした僕の善意だよ、はい、後は任せたよ」
すると同時に空間が揺れベネッサが現れる。
「ごめんね、ミロって少しネジが外れちゃっていてね」
「……いえ、大丈夫です」
何もない所から出て来たことに関してはもう触れない、そして急に薬を飲まされたことは驚いたが結果的には体は軽くなったし感謝するべき……なんだろうか。
「じゃあ早速、修行始めるわよ、これから時間交代で君の修行を見るから覚悟してね」
「時間交代?」
「そう、最初は私、その後は昨日いた残りの四人にもみてもらうから」
「そんなことしてもらえるんですか、でもなんでそこまで……」
「意外とみんなノリノリだったよ、みんなそれぞれ得意分野違うからね、それを一人に詰め込んだらどのような人間兵器が出来上がるのか楽しみにしてたよ」
「……」
聞かなければ良かったと後悔する。
「まぁ死なないようには努力するけど、君も命がけでやらないとあっけなく死んじゃうかもね」
ニコニコと笑って告げるベネッサ。
その笑顔が少し怖かった。