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1 英雄になりたい

人間は黒龍に滅ぼされるかのように見えた。

人々は願った。世界を救ってくれと。

そんな願いに応えるかのように一人の男が立ち上がった。

その男は仲間とともに黒龍に挑み、犠牲を払いながらも勝利した。

世界中の人々は歓喜しその英雄達を称えた。

しかし英雄は黒龍を倒してすぐ仲間とともにその姿を消した。

それ以降彼等の姿を見たものはいなかった。



『うぉぉぉぉぉぉぉ!!』


いつも賑やかな王都だが今日は一段とまして国民は盛り上がっていてまるで祭りのようだった。


「英雄の帰還だ」


歓声を上げる国民達の列間を堂々と歩くのは四人少年少女だった。

魔法騎士団の護衛を受けながら周りの国民達に笑顔で手を振る。


「凄いなぁ」


その様子を列の後ろで目を輝かせながら見る少年がいた。

自分とそう歳が変わらない少年少女がこの国の英雄なのだ。

昔話の英雄の再来と言われているこの少年少女達に少年ユノは情景を抱いた。

物語で言えば完全な主人公、いずれはあの英雄も超えると言われてる四人だ。


「僕なんかとは大違いだ……」


ユノは孤児院出身で、今は学校に通っているただの学生。

比べるのもおこがまし過ぎる。


「でも僕も頑張らなくちゃ」


少年の夢は魔法騎士団に入ることだった。

魔法騎士団は国一番の人気職業で、男なら誰しもが目指す職業。

けれどその一方命を落とす確率も高い職業でもある。

しかし毎年受験者は増える一方だった。

ユノも将来大きくなって試験を受けるため日々勉学と修行に明け暮れている。


ユノはパレードを見ながら決意を新たに固めた。


「絶対あの人達と肩を並べられる英雄になる」



「ただいま」

町外れにあるとても古びた大きな家、そこがユノが住む孤児院の家だった。

扉を開けると孤児院の神父とユノと同年齢の女の子と一回り小さい男の子が出迎えてくれた。


「おかえりユノ」「おかえりなさいユノ兄」

「ただいま、エリン、ジック」


抱きついてきて足にしがみつくジックにユノは笑いながら頭を撫でる。

それを眺めていた神父が優しい笑みを浮かべ


「おかえり、もうすぐご飯できるから」

「うん、ありがとう」


それから四人は夕食を取る。

メニューは白米と魚に野菜炒め、そしてミートボールだった。


「うわっ凄いこれどうしたの?」

「はははっ、なんせ今日はユノの誕生日だからね、奮発したよ」


いつもは魚やお肉などは出なく野菜だけだったのだが、今日はユノの誕生日ということで神父が頑張ってくれたらしい。

ユノはそのことを完全に忘れていた。


「忘れてた……ありがとう神父」

「誕生日おめでとうユノ」

「おめでとう」

「おめでとー」

「さぁ、たんと食べなさい」


少し泣きそうになるユノ。

神父の言葉と同時にジックがミートボールと魚にかぶりついた。


「うぉーうめー」


ジックはこれでもかというくらい、口に詰め込む。


「こらこら、今日はユノのお祝いだよ、ジックがそんなに食べたらダメじゃないか」

「いいよ、食べな」


神父の言葉に一瞬止まるジックだったがユノの言葉ですぐさま食事を再開した。

その様子を見てユノはとても嬉しそうに笑うのだった。


ユノは自分の部屋に入り布団に入るが目は冴え眠れない。

今日見た光景が頭から離れなかった。


「かっこよかったなぁ」


カーテンの隙間から月の灯りがさす。

布団から起き上がりカーテンを開き窓を開けて月を眺める。

とても綺麗な満月で辺りからは虫の心地よい鳴き声が聞こえてくる。そよ風が前髪を揺らす。

なんとなしに月に手をかざす。

その大きな月は今にも掴めそうで掴めない。

どうしてからわからないけど昔から月が好きで月を見ているととても切ない気持ちになるのだ。


「まるで本で読んだ恋ってやつみたい」


無意識に溢れた言葉に自分で似合わないなと苦笑する。


「なぁに黄昏てるの?」


ふと後ろからそんな声が聞こえビクッと思わず体が震えた。


「……エリン、こんな夜にどうしたの?」


振り返るとそこには寝間着姿のエリンが扉をあけて立っていた。

いつもゴムで縛られている赤髪が今は解けていて肩下まで下ろされている。


「少しお話ししようかなって」


そう言ってエリンは中に入ってきてユノの横に腰を下ろす。

二人はしばらく無言で月を眺めていた。

そして数分が立ちふとエリンが月を見ながら言葉をこぼした。


「ねぇ、私たちこれからも一緒に居られるよね」


「……急にどうしたの?」


普段からは考えられないとてもしおらしい態度にユノは少し驚く。


「なんか嫌な予感がするの、ユノがどっか遠くへ行ってしまうような予感が、大丈夫だよね。これからもこういう風にみんなで楽しくご飯を食べて笑いあって、こうやって月を見ながらくだらない話をしたりできるよね?」


「大丈夫だよ、僕はどこにもいかないよ、僕はこの街で騎士になるんだ、まぁ、もし騎士になれたら中々帰ってこれないかもしれないけど、でもちゃんと帰ってくるよ、ここが僕たちの家だからね」


「なら、私もなる」


「え?」


「魔導騎士になってユノを助けるよ、私魔力は多い方だし!」


ぐいっと顔を近づけてくるエリン。

その表情はとても真剣だ。


「そっか、なら僕も頑張らないとね」


「負けないわよ!」


「僕だって!」


それからも二人は月明かりが指す部屋でとてもくだらなく、とても楽しい話を明るくなるまで続け神父に怒られるのだがそれはまた別の話。


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