悲しみ
俄雨がしみこんでいくひび割れたアスファルトのうえを表情の無い細身の中年が傘もささずによたよたと遅足で歩いていた。
手には真っ白い骨壺を大事そうに抱えている。
余程、大事な人だったのか自分の身を盾にして雨から守っていた。
中年は、高台にある腐ったぼろぼろの柱に支えられている変色したトタンの屋根のアパートの前にたち、塗装が剥がれ全体の大部分が錆びた階段の、いまにも折れそうな手すりにこれでもかと体重をかけた。
そうして重そうな足を階段に一段あげいまにもおしつぶされそうな、くの字のからだをまた一段、そしてまた足を一段……、と能面のような表情のままようやく二階まで押し上げた。
入ると湿った布団の上に崩れ落ちた。
それでも骨壺はしっかりと抱きかかえて声をださずに泣いていた。
同じ体勢で小一時間、寝返りをうってまた小一時間泣いていると重いからだをむくりとし、ふと外を見やった。
雨はやみ灰色の町は空からそそぐ光線で輝き虹がかかっていた。
そんな景色を見た中年はなぜかわからないが自分の心に怒りがわいてくるのを感じ手早くカーテンを閉め、そしてまたゆっくりと骨壺を抱きしめて目を閉じた。
そして眠りたくとも眠れずとても永いような時間をすごし、疲れ果てたあとにようやく眠りに落ちた。