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「私、なのかな?」
首を傾げて答えると、テオがすぐさま突っ込む。
「なんで疑問形なんだよ」
「だって、町の人達の病を救ったのは治癒魔法を使えるヘレナだもん」
「あ~、そんな話もあったね」とシドが思い出したように相槌を打つ。
「けど、そいつはそこまで町に顔を出しているわけじゃねえだろ。そんな凄い奴が町に来るほど暇なわけないだろ」
「うわ、遠回しに暇人って言われた!」
「別に遠回しじゃねだろ」
テオの言葉に思わず彼に蹴りを入れたくなったが、グッと堪えた。
確かに私はヘレナに比べたらだいぶ暇を持て余している令嬢だと思う。だって、魔法が使える特別な女の子でもないし、お茶会を呼んでくれる友達もいない。
王子に一直線にならずに、もっと沢山の人と会話すれば良かった……。今からでも友達作りは遅くないよね……?
「なんかショック受けてるよ」
「俺の言葉でか? こいつはそんなやわな女じゃねえだろ」
今度は褒められているのかな?
シドとテオの会話に私は反応する。
「私、令嬢の友達全然いないなって思って。山賊って仲の良い貴族とかいるの?」
「「いるわけないだろ」」
双子の言葉が見事重なる。彼らの大きな声に私は「やっぱり」と呟く。
「令嬢の友達が欲しいのかい?」
シンディが私を見つめながら口を開く。その質問に考え込んでしまう。
「どうせあんな奴ら上辺だけだろ」と、テオの声が耳に響く。
ごもっとも。きっと、お茶会に参加しても本当に仲の良い友達なんて作れるかどうか怪しい。私は小さい頃から自己中心的な我儘令嬢だったのだから。
ヘレナは令嬢の友達としてカウントしても良いのかな。私の被害に一番遭っていたのは彼女だから何とも言えない……。
皆で他愛もない話をして、わちゃわちゃするのは楽しい。高校生時代を思い出すと少し懐かしく思う。
放課後に黒糖タピオカミルクティーを飲んだり、シナモンの香りがするアップルカスタードアイスクリームクレープを食べたり、大好物に包まれて過ごしたあの時間が恋しい。
あの甘ったるい時間が幸せだったな~。彼氏も甘党だったから、よくカフェ巡りとかしてたし。
……私の方が胃袋でかくて、よく食べていたけど。
ヴァイオリンは大好きだし、これからも練習するけど、それでも、たまにはやっぱり……。
「駄弁りたい」
思わず本音が吐露する。
「あんたらが話し相手になってやりな」
シンディは双子の方を見ながらそう言った。
私、令嬢の友達が欲しいって言ったんだけどな。
「え、俺ら?」
「キルトン家だったら、嫌というほど茶会で付き合いなんてあるだろ」
「それと友達が出来るかは別だろ」
「つか、俺らじゃ令嬢と話が合わねえだろ」
テオは面倒くさそうな表情を浮かべる。
確かに私がもし双子の立場だったら、絶対に嫌いな貴族の相手なんて断ると思う。
「それに王子の婚約者だし、下手なことは出来ない」
さっき言いそびれたけど、王子の婚約者じゃなくなったんだよね。私はシドにそのことを伝えようと口を開く。
「あ、そのことだけど」
「そうだ! こいつ未来の王妃様じゃねえか」
「私、王子とは」
「もしかしたら、俺達消されるかもしれない……」
双子の声に私の声はかき消される。
「婚約破棄……」
「「絶対に俺達には無理だ!」」
ああ、もうなんでもいいや。
今は双子が楽しく会話しているのをただ楽しんでおこう。




