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私って、そんなに世間知らずのお嬢だったのか……。
シンディは少し呆れた様子で話を続けた。
「魔法は家を一歩出れば使うのに申請がいるんだよ」
「なにその面倒くさい制度」
無意識に心の声が出てしまう。
いつでもどこでも使えると思っていた。案外魔法がある世界も縛りがあって大変だね。
「ルールなんて破っちゃえばいいのにな」
「ビビりなんだろ」
シドとテオの言葉に私は「王子はビビりじゃないよ」と口に出してしまう。
こんなことを言うつもりじゃなかったのに、何故か勝手に口が動いていた。私が今日見ていた王子は逞しく見えた。
「私達貴族がルールを守らないと、誰が守るの。人を守るためにルールは破らないといけない時があるかもしれないけど、規範となる者が破れば処罰はより一層厳しくなる。貴族は貴族で窮屈な世界だよ」
だから、王子達はこんな緊急事態でもルールを律儀に守っていたわけだ。
私にはきっと真似できない。どこかでルールを破ってしまう自分がいる。……言い訳するなら名を残す偉大な音楽家なんて型破りな人達ばかりだもん。
まぁ、そもそも魔法を使えない私にとっては無意味なルールだけど。
「待って、今王子って言ったか?」
突然シドが顔色を変える。うん、と私は素直に頷く。
どうしたんだろう、王子に何かされたことがあるのかな。もしかして魔法でカエルにされたことがあるとか?
テオは不思議そうにシドを見る。
「どうしたんだよ、いきなり血相なんか変えちまって」
「待って、確かキャシー・キルトンって言ったよな」
またしてもシドの言葉に私は素直に、うん、と頷く。
「キルトン家の令嬢ってアダム王子の婚約者じゃねえか!!」
突然の大声に私は思わず手で耳を覆ってしまう。
びっっっくりした。そんなに声出せるなんて、体育祭の応援団長になれるよ。
「は? え? 王子の婚約者? ……え、キルトン家ってあの大貴族の?」
困惑した様子でテオは少し声を震わせる。
双子が騒いでいる中、シンディは冷静だった。きっと彼女は名前を聞いた時から私の正体を知っていたのだろう。
「け、けど、キルトン家の令嬢って我儘で傲慢、ひねくれていて、いつもふりふりの痛いドレスを着ていて、貴族界では嫌われている令嬢じゃなかったっけ?」
「ああ。うざいから俺達がターゲットにしようぜって言っていたやつだよな」
シドとテオが顔を見合わせながら言葉を発する。
えええ、目の前でめっちゃ悪口言われてるじゃん、私。
逆にここまではっきり言ってくれる方が清々しくていっか。もはや、変に遠回しに悪口言われるよりストレート過ぎる悪口は苛立たない。
「噂なんてあてになんないよ」
シンディの言葉にシドとテオは口を閉ざす。母親には従順な息子達だ。
「「そう言えば、町によく来てるって人気者の令嬢っていうのは……」」
双子は私の方へと視線をゆっくり移した。




