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薄緑の壁に焦げ茶色の屋根。元はもっと濃い緑色をした壁だったのだろう。
太陽の光で焼けちゃったのかな。
近くで見てみると、意外と大きな一軒家だった。
「入れ」
テオにそう言われたが、私はその場に立ち止まる。
「……あのさ、山賊なのにこの家にはお母様だけしかいないの?」
山賊はもっと人数が多いイメージだ。もし、この中に仲間が沢山いてボコボコに殴られるような事態になるのは避けたい。
この双子の様子を見る限りは私達を騙しているって感じには見えないけど……。
テオとシドは少し目を合わせた後、テオが「色々とあるんだよ」と眉間に皺を寄せながら答える。
……これはあまり突っ込まないでおこう。
「お邪魔します」
私はテオとシドの後に続いて家の中に入る。
想像とは違って、ふわっと優しいフローラルな匂いが漂う。失礼だけど、もっと汗臭い家だと思っていた。
勝手な偏見だけど、こういう家庭って母親が病弱だったりしそう。小柄な穏やかな女性。
母の病気を治す金が必要なんだ! っていう展開になって、ヒロインが手助けするって感じじゃないの?
……けど、乙女ゲームに山賊なんて出てこなかった。まぁ、私は悪役令嬢だし、いざって時はヘレナに頼ろっと。
「おふくろ~、包帯ある?」
テオの言葉に「それと消毒も」と、シドが付け足す。
私はジノをもう一度抱え直し、足を進める。
家の奥から彼らと同じ緑色の瞳の背の高く筋肉があるがっしりした体型の女性が出てきた。双子の髪色も顔もこの女性から全て遺伝されたのだとすぐに分かった。
女性は茶色くて長い髪を一つにまとめている。
……全然病弱じゃなさそうじゃん。
「なんだい、怪我でもしたのかい?」
私が想像していた展開と全く違う。病気とは程遠い健康体に見える。声も渋いし、姉御肌な雰囲気。
普通にちゃんとした山賊一家だった!
私は心の中でそう叫んだ。
「あれ? このお嬢ちゃんは誰だい」
その言葉でハッと我に返る。双子の母親の情報処理に時間がかかってしまった。
「キャシーと申します。この子の手当てを頼みたくて」
「あんたの子かい?」
「いえ、違います」
私ってそんなに老けて見える!?
微かにショックを受けながら私は失礼のないように話を続ける。
「確かに私は貴女達が嫌う貴族ですが、彼は違います。ただの平民の男の子です。助けて下さい。報酬はいくらでも払います」
「だから助けるって言ってるだろ。……てか、そいつ平民だったんだ」
シドが会話に入ってくる。その後にテオも「こっちに寝かせろ」とソファの方から私達を呼ぶ。
「そんな不安そうな顔するな。それに金は好きだが、こんな状況で金を取ったりなんてしないよ」
彼女はそう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。
胸が熱くなる。初めて人が持つ本当の良心というものに触れた気持ちになった。




