93 山賊の家
彼らが兄弟喧嘩している間に私はこっそりと後退り距離を取ろうとする。
このままずっと言い争っていて欲しい。
こういうのって、大概小枝とか踏んじゃって、パキッて音を鳴らしてバレるやつだよね。私は恐る恐る足を後ろに進める。
「「お前はそこでじっとしてろ」」
二人は同時に私を見て、見事なハモりを聞かせてくれた。
まだ音を立てていないのに、バレちゃった……。流石山賊。
「あ、じゃあ、これ」
私はそう言って、シドの方にイヤリングとブレスレットを手渡す。彼は素直に応じる私に少し戸惑いつつも受け取った。
「私、この子助けないといけないから、これで退散してもいい?」
ジノは私の背中でさっきから息が荒くなって、体がどんどん熱くなっている。
このまま彼らに捕まっていると、ジノの命が危ない。
「……俺らが見てやろうか?」
シドの言葉にその場の空気が一瞬固まる。すぐにテオが口を開く。
「は? 何言ってんだよ。貴族に慈悲かける必要なんてないだろ」
テオの言っていることはもっともだ。
山賊が私達貴族に優しくする必要なんてどこにもない。
……でも、良かった。彼らが暴力団の仲間じゃなくて。もし暴力団だったら、今頃手足の骨は粉々になってたよね。
「けど、こんなちっさいガキが死にそうなんだぞ」
私、バンダナがなくても彼らの見分けがつくかもしれない。
「あ~、分かったよ! 俺らについてこい!」
テオは面倒くさそうにどこか諦めた様子でそう言った。
よい子のみんな知らない人、特に山賊にはついて行っちゃだめだからね!
これは緊急事態だからしょうがない。……本当にジノを助けてくれたら沢山報酬をあげないとね。
私は彼らの後について行った。
小屋とは反対方向へと歩いていく。
結構山奥に住んでいるのね……。だから、こんな野性的な性格になるのかな。
「お前、名前は?」
「キャシー。この子がジノ」
テオの質問に少し息を切らしながら答える。
早く彼らの隠れ家に着いて欲しい。ドレスは泥まみれになるし、この靴はもう使えないだろう。
ドレスで山登りなんてしたの私が初めてじゃない?
山の中は涼しいけど、必死に山登りをしているせいで暑い。新鮮な空気を堪能している暇もない。
「あれだ」
シドが指さした方に視線を向ける。
……普通の家だ。
てっきり、さっきみたいな廃れた小屋を想像していた私の期待は見事裏切られた。
山の中間地点が平地になっており、そこに大きいとは言えないが、ちゃんとした家が建っている。
山賊って家を持ってるんだ、と失礼なことを考えてしまう。
「二人暮らし?」
「いや、母親がいる」とシドが答える。
「見知らぬ他人を家に招いちゃっていいの?」
私の言葉にテオは眉をひそめながら口を開く。
「お前こそ山賊の家にのこのこやってきて良いのかよ。人質にされるかもしれねえとか考えねえの?」
「あ、そっか。考えてなかった。……え、人質にされるの?」
確かに、私を人質にした方が儲かる。盲点!
「危なっかしいやつだな」
テオは私の方を見ながら、そう呟いた。




