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「つまらない道徳の時間とかに習わなかった? 自分の心に正直に生きましょうって」
『つまらないとか口に出して言うのかよ』
「急に何を……。君の結論は何だい?」
「楽しい蝶のお茶会に汚い虫を混ぜたくないって思いがあるのなら、今後、私をお茶会に招待しないでも良いってことですよ」
やけくそになって私は答える。
ふと思う、もっと幼い頃に前世の記憶を思い出していたらなって。現在十六歳で前世の女子高校生までの記憶を思い出しても、年相応の言葉しか出てこない。
『自分で汚い虫って言うのかよ。一体どんな思考回路してんだ』
うるさいな、王子。
いや、皆の心を代弁してくれてると考えたらいいのか。
きょとんと固まった皆の顔を見渡して私はまた口を開く。
「嫌いな人間と一緒にいたくないのは全人類共通だと思うし……。ヘレナもそう思うでしょ?」
突然私に話を振られて、ヘレナはビクッと反応する。
あからさまに怖がられ過ぎじゃないか、私。別に殴ったり蹴ったりしたことはないんだけどな。
「私は……嫌いだって思う人はいないわ。ただ苦手だなって感じるだけで」
ヘレナは少しおどおどしながらもはっきりした口調でそう言った。
「いい子ちゃん」
「え?」
『優等生の模範解答だな。面白みはないが素晴らしい』
王子、あんたは褒めてんのか貶してんのかどっちなんだ。
「誉め言葉だから、気にしないで」
ヘレナは「本当に?」と言いたげな表情をする。
もし私とヘレナがプリクラにズッ友とかニコイチとか落書き出来る仲だったら、こんなに疑い深くみられることはなかったんだろうな。
……そろそろ腹をくくるか。
「私、ヘレナに謝らなきゃいけないのよ」
「謝る? 何を……?」
小さく首をかしげるその仕草も可愛らしい。これで男を沢山落としてきたんだろう。
「今まで酷いことを言ってごめんなさい」
そう言って深く頭を下げた。
本当は謝るつもりなんて全くなかった。きついことを言っていてもそれなりに正論だと自分の中で思っていたからだ。
けど、よく思い出してみたら、私、彼女に「お菓子がまず過ぎて食べられない」とか「けがれるから触らないで」とか「魔法使えるだけで他にとりえない」とか……。
思い出したくもないような酷いことを散々言っている。
ケリをつけないといけないのだ。
誰一人言葉を発さないこの沈黙がなかなかきつい。このままずっと一時間ぐらい頭下げないといけなくなったら、頭に血が上って顔がでかくなりそう。
『謝って済むような内容じゃないだろ』
まぁ、確かに謝って済んだら警察要らないもんね。愛する人を虐げられてきた王子の気持ちはごもっともだ。
ただ、犯罪として考えた場合は、私は彼女を殴ってもないし、刺そうかと思う瞬間が何度かあっても刺していない。
そのことを考えたらやっぱり罪は軽めでお願いします。……牛丼屋入ってご飯は軽めでお願いしますっていうのとわけが違う。
それなりの罰を覚悟しなければ。
「もう良いわよ。気にしてないわ」
優しいその言葉に私はバッと顔を上げる。
そこには柔らかなヘレナの微笑みがあった。なんとまぁ、神々しいのだ。