87 ジノの行方
私の言葉に王子とディランは固まる。
特にショックでもなかった。内密に調べないといけない中で、彼らがわざわざ私の所へくるなんておかしい。
ああ、どうしてもっと早くに気付かなかったんだろう。
王子はばつの悪そうな表情を浮かべるが、ディランはケロッとした表情で「ああ」と答える。
ディランには人に気を遣うという配慮が一切ない。そこがいいのかもしれないけど……。
「お前を犯人だと思って行動した。まぁ、こいつは絶対あり得ないって否定していたけどな」
ディランは、親指で王子の方を指す。
これは王子から信頼をゲットしたってことで喜んでいいんだよね?
『キャシーがこんなに上手く誘拐出来るわけない』
失礼な! ……いや、これは褒められているのか?
「ディラン様はどこで私が犯人じゃないって確信したんですか?」
「俺はまだお嬢が犯人だって可能性は考えてる」
お嬢って私のことだよね?
へぇ、と相槌を打つ。ディランは話を続けた。
「なんたって名女優だからな」
「可哀想な私、馬鹿にされてるよ。……まぁ、けどしょうがないよね。この状況で疑わないって方が難しいもん」
「やけに自信満々な犯人だな」
「犯人じゃないけどね」
「ああ、キャシーは犯人じゃない」
王子が私とディランの会話に割り込んできた。
まさか彼が私を援護する側だなんて……。今から竜巻でも来るのかも。
「それに、私がジノを攫ったところで何のメリットもないし」
「確かにそれもそうだな」
ディランが私の言葉に頷く。彼が納得するなんて珍しい。
王子が一呼吸置いてから、口を開く。
「奴隷が欲しかったとか」
あんたはどっちの味方だ、王子。
「奴隷が欲しいなんて思ったことないわよ。それに仮にも貴族なんだから、よその家の子を攫って奴隷にするなんてことはしない」
「じゃあ、子供と一緒に遊びたかったとか?」
「町で沢山遊んでいるし、ジノの精神年齢を考えると逆に私と遊んでくれないよ」
王子の質問を次々と潰していく。
どうして彼は私がジノを誘拐した動機を探ってるのよ。さっきまでは私を助けようとしてくれていたのに……。
『これでキャシーがジノを誘拐する理由なんてないってことを分かってくれたらいいけど……。まぁ、叔父はそう簡単に人を信じないから無理か』
あ、私を助ける為の質問だったんだ……。
王子ってなんだかんだ優しいよね。王子に幸あれ!
馬車の揺れが激しくなっていく。
道が荒々しくなっていることが良く分かる。ガタガタと大きな音を立てながら馬車は進んでいく。
お尻が痛い。きっと、四つに割れてる。
こんなに舗装されていない道を通るなんて聞いてない。
「もうすぐ着きそうだ」
今すぐ着いてくれ。
ディランの言葉に私は心の中で突っ込む。これ以上は私のお尻が耐えられない。さっきからずっと悲鳴を上げている。
王子が窓の外を見ながら声を発する。
「町とは反対方向なんですね」
「ああ。暴力団のアジトは山奥だからな」
なんだか本当に物騒な事件に巻き込まれたような気がする。
今更引き返すことなんて出来ないけど、少し怖気づいてしまった。




