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「キャシーって少し変わってるんですよ」
「昔からこうなのか?」
ディランの質問に王子は首を横に振る。
「前までは傲慢で意地悪でファッションセンス皆無の令嬢だったんですけど、ある日を境に変わってしまって……」
お? 今なんかめっちゃ失礼なこと言われたような……。
王子だからって何言ってもいいと思うなよ! おこだぞ☆
「お前とよっぽど結婚したくなくて、演技してたなら名女優だな」
ディランの笑みに王子は眉をひそめる。
『そんなに俺が嫌だったのか?』
なんだか申し訳ない気持ちになってくる。
確かに王子と婚約破棄して、ヘレナとお幸せに~なんて思っていたけれど、考えてみれば、全ての元凶って私なんだよね。
私の性格さえ歪まなければ、違う未来になっていたのかも……。まぁ、嫉妬深いキャシー・キルトンの性格はそう簡単には変えられない。
「まぁ、そんなに落ち込まないで、王子」
私は王子の方をポンッと叩く。それと同時に「お前が言うな」とディランに突っ込まれる。
『どうして俺はこんな奴に惹かれているんだ』
本当に私もそれは心底疑問だよ。
王子にはヘレナというヒロインがいるのに……。
「まぁ、俺にとられないようにせいぜい頑張れ」
ディランは意地悪な笑みを浮かべながら王子を見る。
なんでわざわざ王子を挑発するのよ。ディランから見て私なんかお子様でしょ。
いくら女好きでたらしだからって、私もそう簡単に騙されない。
部屋を出て、彼らと一緒に馬車に乗る
エミーには少しばかり王子達と出かけてくるとだけ言っておいた。もし本当のことを言ったら、絶対に両親に反対される。
父は説得出来ても、母を説得するのは難しい。
私は目の前にいる二人の美形を見つめる。私の視線に気づいたのか、王子が「なんだ?」と口を開く。
色気凄いな~って思っていたとか言えない。
「……えっと、私達だけなの? 他の皆は?」
「出来るだけ内密に動きたいから、俺達だけで動く。このことを知っているのは、ミシェル家と俺らだけだ」
王子の言葉に私の中で疑問が生まれる。
「どうして、私にジノを知っているかなんて聞いてきたの? ……本当に助けが欲しいなら、全員に言えばいいじゃない。それに、ヘレナの方が私より絶対役に立つでしょ」
『ミシェル家の庭師が攫われたなんて広まったら、彼らの立場が危うくなる』
……ああ、そういうこと。家名を守る為に内密ってことね。
貴族って色々と面倒なのね。まぁ、ミシェル家は大貴族だし、この国の宰相だから、しょうがないか。
そもそも私達貴族にとっては、たかが庭師がいなくなるぐらいでこんなに騒ぐことはないはず……。
庭師が子供で、しかも暴力団が絡んでいるから王子も動いているのかしら。
「イーサンは俺達とは別行動をして、少年の行方を追っている。それと、キャシーに聞いたのは、半信半疑だったが、たまたまミシェル家の侍女がジノとキャシーが会話しているのを見た気がすると言っていたからだ」
確かに私が小さな子供と会話しているなんて疑ってしまうよね。
私がミシェル家の侍女の立場なら、キャシーがジノを誘拐したと思っちゃ……、もしかして。
「私が容疑者だったんだ」




