82.新しい部屋
カノンを無事彼女の家まで送り届けて、私はまっすぐ家に帰り、ぐっすりと眠りについた。
祭りの準備で疲れていたのか、昼前に目が覚めた。
エミーが起こしに来ないなんて珍しい。私が町へと祭りの手伝いに行っていたのを知っていて、気を遣ってくれたのかな。
私はあくびをしながら身なりを整えながら、昨日のことについて少し考える。
あの地域をどうにかする能力なんてない。
シャルロンはずっとスラム街としてあり続ける。ゲームを終えた時も、あの地域が良くなったなんてことはなかった。
けど、あそこで一つイベントがあったんだよね。……なんだっけ。思い出せない。
私は部屋の中をグルグルと回りながら考え込む。
「何一つ出てこないや……」
まだ先のことだからそんなに心配しなくてもいっか!
私は気を取り直して、ヴァイオリンの練習をするために、ヴァイオリンを手にして、新しく出来た部屋へと向かう。
最近父が私の為にヴァイオリンを練習しても良い快適な部屋を用意してくれたのだ。なんて娘想いのパパなの。
サンキューダディ!
私は軽やかなスキップをする。
勿論、森で練習するのも心が浄化されたようでのびのびと演奏出来るけど、時間がないときは家で練習したい。
私は一階へ行き、一番奥の部屋への前で立ち止まる。真っ白い大きな扉を少し力を込めて引いた。
人は驚いた時、声が出るよりも先に息を呑むのだと思う。
ファンタスティック! って叫びたくなるような部屋。とても綺麗にされた庭が見える大きな窓のついている。物はあまり置かれていない。
窓辺に、薄い緑色の大きなソファアがある。少し開いた窓から涼しい風が入ってくる。
こんな素敵な空間で練習できるなんて、貴族って最高じゃん!
私は緩んだ口元を抑えながら、ヴァイオリンをケースから取り出し、練習をする。
ヴァイオリンを弾いていると、悩みが全て払拭される。美しい音色が私の心を癒してくれる。
アロマオイルよりヴァイオリンの方がリラックス効果があるんじゃない?
……もし、アロマオイルを焚きながら、ヴァイオリンを弾いたら、相乗効果でリラックスし過ぎて気絶しそう。
そんなバカなことを考えながらひたすら腕と指を動かし続けた。
どれくらい弾き続けたのか分からないが、気付けば夕方になっていた。大きな空がオレンジがかっている。
「もう夕方!?」
ヴァイオリンを弾いていると、本当にあっという間に時間が経っていることが多い。
この部屋は父によってちゃんと防音にされているらしく、私が奏でるな色は一切外へ出ないらしい。魔法って便利。
音楽をする者にとってはこれ以上最高の部屋はないと思うわ。
私はソファに腰を下ろし、少し休憩する。ヴァイオリンを弾き終えて、初めて指の先がジンジンと痛むことに気付く。
やっぱりアドレナリンの力は偉大だ。
「なんだか眠くなってきた」
私はあくびをしながら、ゆっくりと目を閉じた。




