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ルイスが心の底から私に感謝していることが伝わってくる。
……けど、私は何もしていない。全部ヘレナの治癒魔法のおかげだ。
「治したのは私じゃないよ」
「それでも、キャシーがいてくれたから、妹は助かったんだ。ヘレナに頼んでくれたんだろ」
ヘレナ呼び!
そうだ、考えてみれば、ルイスはヘレナに会っているんだ。そうなると、ルイスはヘレナに惚れることになってるはずだけけど……、そんな様子でもなさそう。
「それに、キャシーのヴァイオリンでリリーは元気を取り戻した」
「……お役に立てて光栄です」
私はルイスに微笑む。少しルイスの頬が赤く染まった気がした。
「お姉ちゃん、早く遊ぼ!」
私達の会話が長かったのか、女の子は私のスカートの裾を引っ張る。
私はしゃがんで女の子と同じ目線になる。
「いいよ! 何して遊びたい?」
「おままごと!」
ニカッと口角を上げて女の子は答える。「カノン、お姫様役! お姉ちゃんはお姉ちゃん役!」と可愛らしい声を発する。
そこで初めてその女の子の名前がカノンだということを認識する。
いつも遊んでいるけれど、全員の名前をまだ覚えきれていない。というか、自己紹介なんて一回もしていないから、ほとんどの子の名前を知らない。勿論顔は覚えているけどね。
「それじゃあ、王子様役は?」
カノンは「オリヴァー!」と大きな声で即答した。
……誰!?
急にハリウッド映画のイケメン俳優にいそうな名前が出てきてびっくりだ。
カノンの想い人? ……というか、こんな幼い年齢で恋しているのか。けど、キャシーも昔は諦めの悪い恋に奮闘してたもんね!
「早く行こ!」
そう言って、私はカノンに手を引っ張られる。「じゃあね」とルイスに言う暇もなく、私はその場を後にした。
ルイスは家に帰り、母のレイチェルに祭りで使用する星のクリスタルを貰った。それと同時に彼の脳裏にキャシーの顔が浮かぶ。
星は掌でキラッと光る。キャシーの口から王子と婚約解消をしたことを聞いたルイスは内心でホッとし、少し喜んでいた。
令嬢にとって、婚約解消というのは悪い知らせなのだろうが、キャシーはそんな雰囲気を少しも醸し出さなかった。
平民が貴族の令嬢に恋をするなんて馬鹿みたいだと内心で自分を嘲笑しつつもギュッと星を力強く握った。
「そう言えば、アダム殿下、本当に美しい人だったわね」
お皿を洗いながらレイチェルが呟く。それにルイスは反応する。
「ムカつくぐらいカッコいいよな」
「オーラも凄かったし、ヘレナ様や他の貴族の人達も……。ああ、私達と住む世界が違うんだって思ったわ」
「キャシーも貴族だろ」
レイチェルはフフッと穏やかに笑う。尊敬と愛情に満ち溢れた笑みだ。
「そうね。でも、キャシー様はどこか違うのよね。本当に素敵な人だわ」
ルイスは「ああ」と静かに答えた。




