76.ルイスとディラン
「……えっと、キャシー、そちらの方は」
「え~っと、元帥さまさま」
私は右隣に立っている元帥に手を向けて、彼を紹介する。
「分かってるわ!」
ルイスは目を見開きながら大きな声を出す。
今の驚きは、いきなりロン毛の不審者を連れてきたことへの驚きではなく、元帥がいることに対してだったのか。あんなに町の中で目立っていたから噂にならないわけがない。
ディランは何も言わず、ずっと私の隣でニヤニヤしながらルイスを見ている。
どうやら彼の趣味は人間観察のようだ。
人間観察する人ってもっとバレずにこっそりするもんだと思っていたわ。こんな露骨にやるもんなんだ。
「なんっすか」
ルイスがディランの方を見ながら少し戸惑いながらそう言う。
「いや、お前、お嬢のこと」
まさかルイスが私のこと好きなんて言うんじゃないでしょうね。
いや、この男ならあり得る。
私はそんなに鈍感じゃないし、割と勘が良いから、ルイスが私に少しの好意を抱いていることぐらいは知っている。
けど、それを察しても、彼も何もしてこないし、今まで通りに接しているんだから、変なこと言うなよ、このおっさん。
私はディランを睨みながら目で訴える。
「いや、なんでもねえ」
私の圧に負けたのか彼はそう言って、私から視線を逸らした。
そう、それでいい。
「おっさんも空気読めるじゃん」
あ、やっば、声に出しちゃった。
なんで私、自分の心に留めておくこと出来ないんだろう。
「あ? おい、小娘、今なんつった」
「口が悪いですよ、元帥様」
「お前も充分悪いだろ」
そう言ってディランは私の頭を両手でグリグリし始めた。
「ギブッ! ギブっす! おっさんじゃなくてお兄さんの間違いでした!」
私がそう叫ぶと、ディランは手を離してくれた。
頭グリグリはそんなに痛くなかった。相当手を抜いてくれたんだろうな。
やっぱり、女には優しいのか。……なんかモテる理由が色々と分かった気がする。
そして、それを分かっている自分がなんか嫌だ。
「こんな風になっているキャシー初めてみた」
そう言って、目尻をくしゃくしゃにしながら笑う。
うわ~、ルイスってなんか無邪気だな。いやらしいこととか考えなさそう。
……なんかそれじゃあ、私が考えているみたいじゃん。
「少年みたいな可愛い顔するんだな」
「か、かわ……、男にそんなこと言われても嬉しくねえよ」
ディランの言葉にルイスの言葉に慌てる。
急にラブストーリー始めようとすな。てか、二人とも異性愛者だろ。皆を惑わすでない。
「あ、俺、男も相手出来るから」
さらっと爆弾発言すな。
「はぁあ!!?」
ルイスは声を上げて驚く。彼のバグった声量にディランは思わず耳を塞ごうとする。
この世界で男が好きとか簡単に言っていいもんなの?
なんか、父があんなに必死に隠そうとしていたのが馬鹿みたいに思えてきたわ。
まぁ、元帥レベルになると、そんな悪口なんて豚がブヒブヒと鳴いているようなもんなんだろうな。
流石元帥、レベルが違う。
「お嬢は驚かないんだな」
「まぁ、言われてみれば、分かるわ~って感じだもん、元帥さん」
私の言葉にディランはフッと軽く笑う。
「元帥さんってなんだよ」
「焼き鳥屋の名前みたいですよね、分かります」
そう言って、無理やり会話を終わらせてた。
変にこの人に気に入られたら大変だ。また面倒なことが増えてくる。
王子の件が折角ひと段落ついたのに、これじゃあ、一難去ってまた一難だ。




