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ディランは私のことをまじまじと凝視する。
こんなにもあからさまにがっつり見てくる人はなかなかいない。というか、そもそもどうして私は彼につけられていたの?
……何かしたっけ?
「小娘、名前は?」
「キャシー、キャシー・キルトン」
「俺の名前は」
「存じております」
私は彼の言葉を遮るようにしてそう言った。
「あの、なんで元帥様が私のことを調べているんですか?」
「気になることは徹底的に知りたいんだよ」
名前を教えた後も、まだお嬢呼びなのか。
「けど、私を調べても何にも面白くないですよ? 嫌われ者だし、王子に婚約破棄された令嬢だし」
そう言うと、ディランは豪快に笑った。笑い声が森に響く。
何がそんなに面白いんだ。笑いのツボがバグってるのかな。
「その二つだけで充分面白いじゃねえか。それに、町では皆に好かれているようだしな」
「なんでそれを知っているんですか?」
「なんでそれを知られていないと思っているんだ?」
質問を質問で返すな。
確かに、町で私は目立っていたみたいだから、情報を探ろうと思えばすぐに入ってくるだろうな。
……こんな予定じゃなかったのに。どこで間違えたんだろう。
まぁ、悪役令嬢を貫き通すよりかは良いか。
「なぁ、俺も一緒に町に行ってもいいか?」
私がその場を去ろうと、馬に乗ると、ディランが声を掛ける。
「勝手に行けるじゃないですか。なんでわざわざ私と?」
彼の方を訝し気に見ながらそう言聞いた。
前回は一人で町に出ていて、部下に怒られていたし。一人で行くのと、私と一緒に行くのとさほど何も変わらない。
ただ、人数が一人増えただけだ。
「なんでお前が人気あるか気になるからな」
「人気者になりたいんですか?」
「そりゃ、女にモテた方がいいだろ」
彼はニヤニヤとした表情を浮かべる。
……この人、本当に元帥なのか?
「馬鹿じゃないんですか。いつか刺されますよ」
「こんな魅力的な男を刺すなんてできないだろう」
「言っとけ」
私は馬を走らせようとしたが、ディランが低い声で「待て」と馬に呟く。馬は見事に主の私ではなくディランに従った。
彼が馬を見る目の圧力は私でさえ、従いそうになる程だ。……これが、元帥か。
「お前は俺に魅力を感じないのか」
一瞬でさっきの緩い男に戻る。
この男は危ない、と本能が言っている。ディランに溺れたら、這い上がってくることが出来ないような気がする。
「あ~、カッコいいと思いますよ。とっても。女の子が惚れちゃう理由は分かりますよ」
適当に言葉を並べる。
「思ってないだろ。……まぁ、俺もこんな小娘相手にしねえけどな」
そう言って、無理やり馬に飛び乗り、馬の主導権を握られた。
近ッッッ!!
なんでこんな真後ろに元帥がいるわけ? 無駄にドキドキさせるな。
仮にも男と女だから距離感守ろうよ。
しかも、若干良い匂いがするのがちょっとムカつく。
「俺に魅力を感じていないくせに顔赤くするなんてまだまだおこちゃまだな」
恋愛感情を持っていない相手でも、こんな後ろから抱かれるようにして馬を二人乗りしたら誰でも恥ずかしいでしょうが。
なんなら友達でも恥ずかしいわ。
からかうディランを私は無視する。そんな私を面白げに見ながら、ディランは馬を走らした。




