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「私より七歳も上じゃないですか」
「小娘には俺の良さなんて分からんだろうな」
意地悪そうな表情が酷く二十三とは思えないほど大人びて見えた。
……カッコいいのが、なんかムカつくわ。ディランをカッコいいと思ったらそこで負けな気がする。
「そんなことより、お前、俺の甥っ子と別れたのか」
何だろう。王子と婚約解消したことはかなり大事なのに、そんな高校生のカップルが別れましたみたいなノリでいいのかな。フランク過ぎる……。
てか、情報早すぎない? 一日もしないうちにこんな広まるものなの?
……まぁ、一国の王子との婚約が解消されたんだもんね、そりゃなかなかビッグなイベントだ。これ一つで物語のチャプターワンは終わる。
「お前ら、案外続くと思ってたんだけどな」
「誰目線ですか。てか、私達初対面ですよね? 距離感おかしいってよく言われません?」
「初対面じゃないだろ」
彼の言葉に思わず首を傾げる。
私はディランを町で見かけただけで、あの時は彼は私を認識していなかったはず。そして、それ以外に彼と会った記憶がない。
「お前、俺がガキ捕まえた時にいただろ」
「……ま、、じ?」
あの時、彼らの周りにはかなり人がいた。その中の私なんて、ちっぽけなモブに過ぎない。
というか、映画ならきっとエキストラで画面から見切れているような立ち位置だ。それを主役の彼が私を見ていたなんて信じられない。
「何だその反応は。お前、まさか俺のこと認知してなかったのか?」
「いやいや、逆! なんで貴方が私のことを認知してんのッ!?」
彼は呆れた表情を浮かべ、私を見つめる。そして、小さくため息をついた後に口を開いた。
「あのなぁ、その外見で目立たない方がおかしいって」
「町人の格好していたのに……」
「お嬢、頭がチューリップ畑なのか?」
「向日葵畑にして」
「おお、分かった。じゃあ、その黄色い頭にしっかり詰め込んどくんだな。町人に変装するなら全部完璧にしろ。その高貴で妖艶な雰囲気を持った女が服だけでどうこう出来るわけないだろ。そして、その美貌、他と違うことぐらい気付け。目立たないわけないだろ」
「はい、先生」
「俺はいつからお前の先生なんだ」
彼はそう言って、苦笑する。
言われてみれば確かにそうだ。エミーにもすぐにバレたし……。
町の皆にもとっくに私が貴族だったこと知ってたって言うし。私って詰めが甘いのか、馬鹿なのか……。両方か。
ヒロインに好かれたし、悪役令嬢としての道をもう進むことはないわ~、とか思って完全にボケッとしてたわ。油断は禁物、と前世で学んだはずだ。
地面に落ちているゴミ一つで人生が終わるんだ。これからもっと気を引き締めないと。
「これからもご指導お願いします、先生」
私は深々とディランに頭を下げる。
「誰がだ」
そう言って、少し経った後、彼は小さな声でボソボソッと「ほんと変な女だな」と呟いた。
前世の価値観とこの世界での価値観は大いに違うから、変な女になるのは当たり前だよね。
けど、元帥もなかなか変わっているよ!




