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王子、うるさい!  作者: 大木戸いずみ
72/117

72.

 サインをし終えて、ゆっくりペンを机に置く。

 なんか、離婚届書いたような気分だ。これを役所に届けるのではなく、王子に渡すだけ。

 もっと格式張ってやるんだと勝手に思っていた。

「こんなあっさりと婚約解消出来てしまうんですね」

「ああ」

 もっと喋れ。

『意外とクるな……』

「王子、私ね、ずっと昔、それはそれは昔の話なんだけどね、王子をずっと玉子だと思ってたの」

「は?」

 王子は眉間に皺を寄せる。エミーも王子と同じような顔で私を見ている。

「ちっさい頃から、読書が好きで……。私、ルビは読まない人間だからよく読み間違えてたんだ」

「るび? 何の話をしてるんだ?」

「玉子が白馬の上のっても、お姫様の所に着くまでに食べられないのかな? とか、眠ってる時間が長かったら、目が覚めた時にキスとともに食べちゃわないのかな? とか、物語ってファンタジーの世界だから、まぁ、アリかとか思って全く気付かなかったの」

「いや、ナイだろ」

「で、ある日、その事実に気付いたわけ。玉子じゃない……って」

『こいつはなんでこんなに玉子について真剣に語ってるんだ? 婚約破棄の時よりも目が真面目だぞ』

 私は王子の目をじっと見つめながら話す。

「私、その時と同じぐらい、この婚約解消にはショック受けてるよ。つまり、私もそれなりに落ち込んでるよって言いたくて」

「しばくぞ」

 彼は間髪を入れずにそう言った。

 王子もそんなこと言うんだ。折角、私が少し慰めてあげようと思ったのに……。まぁ、慰め方は置いておこう。


 王子はため息をつきながら、言葉を発した。

「なんで俺はこんな奴に惚れたんだ」

 王子、心の声が漏れてますよっ!

 今の言葉って幼少期の私に対してだよね? ナウの私じゃないよね? いちいちこっちが混乱するような言い方をしないで欲しい。

「安心してください。私も幼い頃は王子に惚れていましたけど、今の私は死んでも王子を選ぶことなんてないですから」

 満面の笑みを彼に向ける。

『こいつ、言い切った。……こうも断言されると腹立つな』

「絶対お前に俺のことを惚れさせてみせる」

「王子、キャラ守りましょ? そんな俺様だと誰もついてきませんよ」

「一番キャラ崩壊している奴に言われたくねえよ」

 顔をお互い近づけ合いながらにらみ合う。

「王子と玉子どっちか選べって言われたら、そりゃ、喜んで玉子ですよ!」

「私はアダム様ですけど」

 エミー、あんたは黙ってな。

「玉子より俺の方が価値あるって分からせてやるよ」

「真実の愛とか馬鹿なこと言わないで下さいよ? 玉子はお金になりますが、人間はお金にならないので」

『絶対玉子一つより、俺の方が稼げるぞ』

 ……王子、それは心の内に秘めておいて。

「金が全てなんて言っているようじゃお前もまだまだだな」

「結局、世の中お金なんですよ!」

「情は金では買えないだろ!」

「じゃあ、なんで町にあんな貧富の差があるんですか?」

 私の煽りについに王子が黙り込んだ。

 さっきまでのうるさい空気が一瞬にして静まり返る。

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