62.
「例えばどこ?」
「え?」
私の質問にヘレナはとぼけた表情を浮かべる。ヘレナを少し困らせてみようと、あえて答えられない質問をする。
「前の私の良い所ってどこ?」
「えっと……」
『どこだろう』
ヘレナは心の中で大きな声を上げる。
私はチラッと王子達の方を向く。彼らは私と一切目を合わせようとせず、バッと視線を逸らす。
私でも自分の良い所一つも浮かんでこないのに、ましてや私にいじめられてた被害者から私の良い所なんか出たら驚くわ。
『昔のこいつなんて……、キャシーに初めて会った日は、こんな綺麗な子いるんだなって暫く見惚れたな』
王子、幼少期まで遡らなくていいんだよ。
「ずっと、可愛い顔とか?」
おっと、なんか想像と違う。
「確かに、紫色の瞳とか神秘的だもんな」
オスカーがフォローに入る。
褒められているはずなのに、全く嬉しくないのは何故だろう。顔なんて性格がどれだけ悪くても可愛い子は可愛い。
「そんなことより、ディラン元帥がこの国に来ているらしいぞ」
エディが話題を変えようと、突然口を開いた。
ディラン元帥って、町に来ていたあのリンドン国の人よね?
……有名だったの!? もしかして、貴族の中で彼のことを知らなかったのって私だけ? だって、キャシー馬鹿だもんね。勉強嫌いだったから、政治のこととか一切知らないもんね。
「ああ、そうだ。どうやら叔父は父に話があるらしい」
王子の母の弟……、やっぱり王子なんだな。何歳ぐらいなんだろう。かなり若く見えたけど。
「かっこいいよね! ディラン様!」
ヘレナは明るい声を上げる。
『ヘレナはディランみたいな男がタイプなのか?』
「プレイボーイだぞ」
王子が少しきつい言い方でそう言う。
まぁ、あの容姿なら女の子に困ることはないだろうな……。それに性格も男前だし。
「俺は、卓越した剣の腕と、素晴らしい頭の回転の良さにより最年少で元帥になったディラン元帥を尊敬している」
「ディランはなんの話をしにきたんだ?」
エディの言葉を無視して、イーサンは王子にそう聞いた。その言葉に王子の顔が少し曇る。
「またあの話か?」
「ああ。面倒くさい。叔父も諦めればいいのに」
「ディランの気持ちも分かるけどな」
「あの話って何?」
ヘレナが王子とイーサンの会話に入る。
「また近々教える」
王子はきっとヘレナに何も教えないだろうな。こういう政治関係のことに好きな女の子を巻き込みたくないもんね。
少し不服そうだが、ヘレナは「分かった」と小さく呟く。
『叔父が父に大量の兵を借りようとしている話なんて面白くとも何ともない』
心の声……、超便利じゃん。
今まで知りたくもない情報しか入ってこなかったけど、こういう機密情報を知るのには最高だ。
というか、何故ディランは兵が欲しいんだろう。自国にも沢山いるはずなのに……。




