59.キャシーの本音
私は家に帰って、ゆっくりとクッキーを食べながら今後のことを考える。
まず、どうして私が令嬢だとバレたら町の人間にまずいのか……。
別によくね? とか若干思ってしまったけど、やっぱり態度を変えられるのは悲しい。
実は貴族だったんだぞっていう優越感に少しも浸りたくない、と言ったら嘘になる。やっぱり「え、キャシーってお嬢様だったの!?」みたいに驚かれるのは少し面白いし、楽しい。
さっきのルイスの驚き方とか百点満点だ。
結局人間、皆口に出さないだけで少しは優越感に浸りたいとか思っているだろうし。誰かと比べられた時に自分の方が少し上だったらそりゃやっぱり心地いいだろう。
まぁ、貴族なのは私の実力じゃないんだけど。
クッキーを全て食べ終わり、甘い匂いのする紅茶を一口飲む。
「最初のうちはいいけど、やっぱりずっと態度変えられるのは嫌だなぁ」
「お嬢様、どうかしたんですか?」
エミーが私の独り言に反応してくれる。
「町での私の居場所がなくなりそうで……。こうなんか複雑な気持ち?」
「お嬢様も複雑な気持ちになられることがあるんですね」
え? 私、ロボットか何かだと思われていたの?
ヘレナに人気者ポジションを譲り、そして、私が貴族とバレる。……いや、そもそも私は人気者ポジションだったのか?
まぁ、それなりに子供には懐かれていたから、人気者ってことにしておこう。そっちの方が気分がいいし。
「大丈夫ですよ。町の皆はお嬢様のこと好きですし」
「そのうち、私が貴族ってバレたら皆の態度が……」
「お嬢様って、私が思っていたよりも馬鹿ですね」
「エ、エミー?」
私は彼女の言葉に耳を疑う。
いつの間にそんな辛辣な言葉を吐く子になったの! エミー!
「おっと、これは失言ですね」
「うん、それは失言だね。……で、なんで私が馬鹿なの?」
「だって、考えてみてください。そりゃ、ルイスみたいなちょっと間抜けな男は騙せても、他の皆は無理ですよ。それ程大きくない町で、皆顔見知り、そんな中で突然今まで見たことのない美人が突如現れる。……これで貴族だって気付かれない方がおかしいと思わないですか?」
淡々とそう語る彼女に何も言い返す言葉がない。
ド、ド正論だ。てか、今ルイスのことちょっと間抜けな男って言わなかった?
「今までお嬢様の素性について誰も追及してこなかったのは、お嬢様が何も言わずに秘密にしておきたいということを周りが察していたからだと思いますよ。まぁ、流石に王子の婚約者とは思われていないでしょうが」
うん、なんか私もそんな気がしてきた。
皆が私を受け入れてくれる様子がやけに優しかったのとか、何かといえば優しい目で見守られていた。
道を聞けば、それはそれは丁寧に教えて貰えたし、人に会う度、丁寧に自己紹介されたりもした。
勝手に、うわ、私って結構好感度高いじゃ~んとか思っていたけど、あれは、子どもを見守るような目だったのか!
「貴族なのに平民って皆を騙してて罪悪感あったのに! 私が騙されていたのか!」
「本当に罪悪感ありました?」
鋭い目でエミーが私を見つめる。
「……正直、全くなかった。ぶっちゃけ、皆、私が貴族って知ったらどんな反応するかなっていうウキウキワクワクみたいな気持ちと、それを言ってしまえば私のこの生活が崩れるから無理だなという残念感しかなかった」
やけになって本音を全てエミーにぶちまける。彼女は「でしょうね」という表情を浮かべる。
ヒロインには好かれ、王子は私の要求をなかなか聞いてくれない、足は筋肉痛、そんなことが重なり、私のキャラが崩壊しつつある。
いや、これが元々のキャラで令嬢キャラを演じられなくなっている、と言った方が正しいのかもしれない。




