53.
今日は楽な気持ちで遊ぶはずだったのに、思った以上にハードだった。
結局子供達全員とかけっこした。私の体力を褒めて欲しい。いくら手を抜いているといえども、あんな数を相手に走り続けるのは疲れる。
そして、なんでこんなに走り終えた後も子どもというものはあんなに元気なんだろう。若いっていいな。
「おねえちゃん、もう一回走ろうよ~」
む、無理。私、これ以上走ったら、死ぬわ。干からびる。
ただでさえ今もこんなに息が切れているのに……。
走るの割と好きだから、全然苦じゃないけど、人間には体力の限界というものがあるのだ。
「もう、私疲れたよ~」
「もう一回だけ!」
「え~~」
「おい、お前ら、あんまりキャシーを困らせるなよ」
ルイスが助け船を出してくれる。
そういうルイスが一緒に走ってあげればいいのに、とか思っちゃうけど、彼は彼で町の手伝いをしているから忙しそうだ。
貴族って本当に働かないわよね……。
この乙女ゲームはほぼ貴族の中しか映されていなかったし。王子、攻略対象達とヒロイン、悪役令嬢は上級貴族って、勝ち組の世界じゃん。
私が転生したのは悪役令嬢だけど、全然幸せな方だ。むしろ有難く思わないと。
「あ、そうだ、キャシー」
ルイスが何か思い出したように私に声を掛ける。
「何?」
「これ、パン屋のルーシーの所に届けてくれないか?」
そう言って、ルイスは小さな手紙を私に手渡す。
ルーシーってあのいつも茶色い長い髪をおさげにしている子だよね……。
「もしかして、これ、ラブレター?」
私が茶化すように言うと、ルイスが即否定する。
「ちげえよ。妹からの手紙だ。……それに妹と同い年の子は恋愛対象に入らないしな」
「恋愛に歳なんか関係ないって」
「何だ? 今恋でもしてるのか?」
「全く。悲しきかな、ときめくようなことがない」
「俺のこと好きになれよ」
最後にルイスが言った言葉があまりにも声が小さすぎてなんて言ったのか分からなかった。
「ごめん、今、聞き取れなかった。もう一回言って貰ってもいい?」
「いや、何でもねえ。気を付けて行ってこい」
ルイスはそう言って、私の背中をバンッと軽く叩い。
……何だったんだ。そう言われると一番気になるパターンじゃないか。
もしかして、小さく私の悪口言ったとか? それは無いと信じたいけど。
「じゃあ、行ってきます」
「おう」
「バイバイおねえちゃん」
「すぐに帰ってきてまた遊ぼうね」
「帰ってきたら、お話して!」
「僕、かくれんぼしたいな」
子ども達よ、君たち元気過ぎない?
パワフルな子どもに囲まれていると段々自分も若返りそうな気がする。
「分かった分かった」
とても貴族の令嬢とは思えない反応をして私はその場を離れた。
子どもたちは私の姿が見えなくなる最後まで必死に手を振っている。……永遠の別れじゃないんだから。思わず吹き出しそうになる。
この町に通い始めてから結構日数が経ったけど、私は、最初からずっとここに馴染んでいる。むしろ平民の暮らしの方が合っているんじゃないかと思うぐらい。
だって、町の皆にはそこそこ好かれていて、子ども達とも仲良くしている。
……ヒロインポジション奪ってないよね?
いや、大丈夫。確か、ヘレナはたまに町に来るぐらいであんまり町の人達と濃厚接触はしていない。
もはやもう私は平民同然のようになっているし、なんなら貴族ともバレていない。
ヘレナは貴族としてこの町にやってくる。……うん、ヒロインの役割は奪っていない!




