52.子供達
「おねえちゃん! 追いかけっこしようよ!」
「今日は僕らとボール遊びするんだよ!」
「絵本を読んで~~!」
私はいつの間にか町の子ども達にかなり好かれている。
基本毎日のようにヴァイオリンの練習をしに森に出て、その後、町に向かっている。
町でヴァイオリンを弾くことはあんまりないけど、子ども達の面倒を見ていたらいつの間にか懐かれた。彼らの両親はみんな働いていて忙しい。
「よう、キャシー。大人気だな」
ルイスがクシャッと笑って私にそう言う。
「やっほう、ルイス。リリーは元気?」
ここにいると自分が令嬢ということを忘れてどんどん口調が軽くなってくる。圧倒的に町にいる時間が長くなったから、品のある言葉遣いを忘れちゃいそうなんだよね。
町へ来てからお茶会へもそんなに行ってないし……。
「キャシーがほぼ毎日会いに会いに来てくれるから、前よりずっと明るくなったよ」
「それは良かった」
「本当に感謝してる。妹があんなに楽しそうなのはキャシーのおかげだ。有難う」
「照れますな」
私の言葉にルイスは笑う。
「キャシーは不思議と人を惹きつける力があるな」
「ルイスばっかりお喋りしててずるいぞ! おねえちゃんは僕らと遊ぶの!」
突然、小さな男の子が頬を膨らましながら私の手を引っ張る。
もう! 可愛すぎて、癒しだわ!
ルイスの言葉も嬉しかったけど、小さい子にこんな風に手を引っ張られる方が百倍嬉しい。
「よしっ! 今日はかけっこの日よ!」
私は髪を一つにまとめて声を上げた。小さい子達が一斉に歓声を上げる。
「やった~~!!」
「俺が一位だぜッ!」
「キャシーねえちゃんと一緒に走れるんだ!」
男の子たちはガッツポーズをする。
「私もおねえちゃんとかけっこしたい!」
「た、楽しそう」
女の子たちはさっきまであまり走るのに乗り気じゃなかったけど、私の言葉でどうやらやる気を出してきた。
やっぱり若い子は体を動かさないとね。
それに、昨日はままごとしたし……、あれはなかなか凄まじかったけど。今時の小さな子ってあんなシビアな会話するの?
お母さん役の子が、お父さん役の子に対して「ウワキしてたでしょ」って言った時はまっっっじでびっくりした。その後の会話もなかなかだった。何も悪くないお父さん役の子が段々可哀想になってきたよ。
まぁ、今日はそんな心配ないから楽な気持ちで挑もう。
「じゃあ、俺一番最初に走る!」
黒髪の男の子が威勢よく上に手を挙げる。
「誰と?」
「ねえちゃんと!」
「私と?」
「手加減はいらないから!」
そんなこと言ったって、子ども相手に本気で走れない。あまりにも大人気なさすぎる。
かといって、ゆるゆるで走っても彼のプライドを傷つけてしまうかもしれない。難しいところだな……。
「僕もキャシーねえと走りたい!」
「私も!」
次々と子どもたちが声を上げる。
え、私めちゃくちゃ人気じゃん。幼稚園の先生並みに人気じゃない?




