50.父との会話
意味が分からない。どうしよう、意味が分からない。大事なことなので二回言っておいた。
「そんなボケッとしてどうしたんだい?」
オスカーが不思議そうに私を見る。
『ヘレナがこんなに楽しそうにキャシーに話しかけているところを見るのはいつぶりだろう』
『幼い頃は仲良くなりたくて沢山話そうって思ったけど、何故か私嫌われてたのよね』
うっせえ。
これから私は二人の声を聞いて生きて行かないといけないのか。……やだ。
心の声聞けてラッキーとか思ったけど、やっぱりいいや。私は別に誰の声も聴きたくない。というか、むしろこの人達と関わらずに生きていきたい。
この乙女ゲームの神様は一体私をどうしたいのだろう。
もしかして、二人の声を私に聞こえるようにして、ハッピーエンドにしろって言ってんのかな。
「ねぇ、また今度演奏して!」
「う、うん」
「約束よ!」
かつて悪役令嬢がヒロインにこんなに期待に満ちた目で見られることがあっただろうか……。
彼女のピンク色の目にずっと私が映っている。ヘレナの瞳にずっと映っていなきゃいけない人物は王子なのに。
「……キャシー」
突然の父の声に私はゆっくり振り向いた。真剣な父の表情に私は察した。
私、多分、怒られる。ここはもう言い訳なんてせずに怒られよう。
けど、怒られるなら父もちゃんと理由を言ってくれないと。
「少しいいか?」
「はい」
そう返事をした後に、ヴァイオリンを王子に渡し、演奏者の所へ返すように頼んだ。
そして、何を考えているのか分からない父の後をゆっくり歩く。
『キャシー、大丈夫かな?』
『あいつ、大丈夫か?』
二人そろって仲良く同じことを思うなんて運命共同体じゃん。
部屋から出て、父の部屋へ直行した。
「あの、お父様」
「まず最初に、キャシー、本当に素晴らしかった。あの演奏ほど感動するものに出会ったことがない、と言っても過言ではないぐらい素晴らしかった」
「……過言ではない、ということは、他に素晴らしい演奏をなさる方が過去にいたのですか?」
私がそういうと、父は少し複雑な表情を浮かべた。
「マディ国と隣接している国、リンドン国は分かるか?」
「はい。リンドン国はアダム王子のお母様の祖国ですよね」
リンドン国の人はほとんど皆褐色肌だ。だから、王子も若干薄いが、小麦肌なのだ。
「そうだ。そのリンドン国から昔、一人の青年がこの屋敷で働いていたんだよ」
「昔というのはどのくらい昔の話ですか?」
「お前の母と出会うずっとずっと前だ」
「で、その少年がヴァイオリニストでお父様は彼に恋に落ちたと。で、ヴァイオリンを聞くと悲しい過去を思い出す。ましてや、娘がそれを弾きたいと言い始めて反対なさったのですね」
適当にかまをかけてみた。このままだと父は肝心なことを言ってくれなさそうだし。
私の言葉に父は瞳を大きく散瞳させる。
……図星なんだ。
「な、何故そこまで」
父は娘に知られて絶望的だという表情を浮かべる。私には一番知られたくなかった事実みたい。
別に母と出会う前に父がどんな恋愛をしてようと私は構わない。ただ一つ聞きたい、父が受けだったのか、攻めだったのか……。
顔は綺麗だし、体格もそれなりに良い、攻めかな?
そんな不躾な質問絶対に出来ないけど。




