表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
王子、うるさい!  作者: 大木戸いずみ
48/117

48.

 ヴァイオリンを手にしたのは良いけど、演奏する場所がこんな窮屈なのは嫌だな……。

 人が近すぎる。もうちょっと落ち着いて弾ける場所が良い。

 私はぐるっと全体を見渡す。ふと、月光に照らされた大きなバルコニーの方に目が留まる。

 なんて良いスポット。夜風が当たって気持ち良さそうだし、完璧じゃん。

 あのフルートの演奏の後だもん。これぐらいの演出は必要だよね。

 ヴァイオリンを片手に持ち、コツコツとまたヒールの音を鳴らしてそこへ向かう。

 誰も何も言わない。ただ私の行動をじっと見ているだけだ。

 ……何だろう、この緊張感。

『何してるんだ?』

 最高の場所で最高の演奏をしようとしているの。

 というか、王子の声聞こえてたらさ、演奏中に実況されているみたいになるんじゃ……。まぁ、演奏してたら周りの声なんて全く聞こえなくなるからいいけど。

 バルコニーに辿り着き、皆の方を見る。

 父と目が合う。怒りというよりも不安で少し悲しそうな目をしている。

 やっぱりヴァイオリンに何か思い入れがあるのかな。ごめんね、父。それでも、私は演奏したいんだ。

「月明かりがキャシー嬢を照らしていて、本当に月の女王みたいだ」

 誰かの声が聞こえた。

 残念だけど、今から弾くのは月のように妖艶で上品な曲じゃない。

 私はフッと口角を上げて、ヴァイオリンを肩の上に乗せる。全員が私に集中する。

 心臓の鼓動がバクバクとうるさい。良い緊張だ。

 スゥっと息を吸い、弦に弓を滑らした。

  

『な、なんだ!? 空気が震えた』

 私は今、ソリスト。好きに弾いて良いのよ。

 音がバラバラにならないように スピード感を大切に、疾走感を……。

 誰一人声を発さない。そんな余裕を決して与えない。ここにいる全員を私に集中させる。

 音と音を重ねて夢を見させる。スピードを上げながら滑らかに弾く。

『容赦なく音が心の中に入ってくる。彼女は……誰だ』

 月の世界に溶け込むように、人の醜さを全て剥ぎ取り清らかさだけを残す。

 力強く、激しく、けど、不快感を与えないように。

『幼い頃からプロのヴァイオリニストの音を聞いて、習ってきた俺がこんなに気圧されるなんて。こんな心震える音を聞いたことがない』

 音を可視化させる。空気に音を震わせて、聞く者に幻想を届ける。

 月の妖精が夜の悪戯を悠々と楽しみ、朝まで踊り歌う。

 楽器の声は音だ。音で何を伝えるかを思いながら演奏する。

 段々迫力のある音を奏でて、クライマックスに向かう。世界の中心が自分であるかのように弓を滑らす。

『月夜に輝く姫』


 バッと弓を高く上げて、弾き終える。

 一瞬で静寂に包まれる。暫くの間、誰も言葉を発さず、手を叩くこともない。

 私の荒い息だけが聞こえる。

 この感覚を知っている。演奏を終えた後、すぐに拍手が送られるわけじゃない。人の心を揺さぶり、感動させた演奏の後は必ず沈黙だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] もう埒外のヴァイオリニストとして世間に認知させてパパ上にも反対できないような空気を作るしか無いですね。 うん、アレだ…既成事実(違います
[良い点] すごく面白いです! あと、王子へのざまあが楽しみです……! [一言] 続き楽しみにしてます!
2020/05/13 16:36 退会済み
管理
[一言] ヴァイオリン引くの父親にバレて良かったの?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ