45.
あ、王子達だ。
少し遠くで、グラスを片手に楽しそうに会話しているいつものメンバーが見えた。
お茶会の時とは違い、皆大人びて見える。服装だけで印象って変わるものね。色気が凄い。
……しゃあなし、挨拶しに行くか。
最近ヘレナのおかげでもう国外追放とか死刑とかされないと分かってから一気に彼らへの態度が雑になった。
ゆっくりと彼の方へ歩み寄る。ヒールの音が響く。
このコツコツって音が昔から大好きだ。大人へ近づいた気がして、背筋が自然と伸びる。良い女は良いヒールを履かないと!
彼らは私に気付き、喋るのをやめ、静かに目を瞠る。
挨拶しにくッ!
そんな私が来た瞬間、急に黙られてガン見されるこっちの身にもなってよ。
『理性飛びかけた』
え、男子。ただの男子じゃん。中学生男子じゃん!
中学英語の教科書に出てくるキャシーも驚いて、ワッツハプンって叫んでるよ。
あんたの隣にいるヘレナの気持ちにもなってみろ!
……いや、これが案外他の人も心の中で思っているのかもしれない。口には出さないだけで。
そう、口に出した瞬間、浮気が始まるんだ! たらし物語が上映されるんだ!
だって、私も彼氏いた時、他の男性に対してキュンってすること普通にあったし、カッコいいなって思うこともあった。勿論、それを彼氏の前で言ったことは一度もないけど。
仲の良い女の子友達での会話ではそんなことも言っていたけど……。でも、まぁ好きなのは彼氏だったし。
第一、本能には抗えん。
少女漫画とか乙女ゲーム的にはアウトなことなんだろうけど、現実は違う。もっとシビアな世界なのだ。
皆、他人の心の声が聞こえなくて良かったね……。
『俺の婚約者、可愛すぎないか?』
王子、あんたもう私に惚れてるんじゃね。
まずいよ! 色々怒られるよ! もっとヘレナに一途になって!
私がこんな格好しているのが駄目なのか。
「えっと、本日は来て下さりどうも有難うございます」
私も言葉で皆ハッとする。ヘレナまでもが私に見惚れていたみたいだ。
……ヘレナ、もっと危機感持ってよ。
なんでヒロインが悪役令嬢に心配されてるの。
「なんていうか、見違えたよ」
オスカーが少し慣れない風にそう言う。
本当に普段女の子の扱い上手いのか? もっとさらっとスマートに言いなよ。色魔の威厳が消えるよ。
「急に大人っぽくなったな」
「……綺麗だ」
エディに続き、イーサンも口を開いた。
そんなこと言うキャラじゃなかったじゃん、イーサン。
自分が、魅惑の魔法を持っているのではないかと錯覚してしまう。けど、残念なことにそんなものはない。
……男って私が想像していたよりもはるかに単純なのかな。
ヘレナが頬をピンク色に染めながら、煌めいたビー玉のような瞳を私に向ける。
「キャシー、本当に素敵だわ。あの、今まで見たどの令嬢よりも。今日の月に輝いて、本当に月からきたプリンセスみたいよ」
だから! あんたは単純にならなくていいの! もっと複雑な気持ちを持って!




