44.パーティー
「お嬢様、本日の夜のパーティーのドレスどうなさいますか?」
エミーの言葉に私は思わずその場に固まる。
パーティーとか言ってったっけ?
……そう言えば、母が昨日の夜にこの家でなんかするって言ってたけど、正直あんまり話を聞いていなかった。
私はもう太陽が沈もうとしている景色を見つめる。もっと早朝に知らせてくれたら、逃げることが出来たのに……。
「お嬢様? どうかなさいました?」
「パーティーに出席したくない」
舞踏会ってあんまり好きじゃないんだよね。文化祭なら大好きだったんだけど。
躍るのも好きだし、人と会話するのも好きだ。ただ、社交辞令を言い合い、愛想良くしないといけないあの空気が本当に苦手だ。
お茶会と違って、お菓子が出るってわけでもないし……。
「ですが、奥様になんと」
エミーは少し困った表情を浮かべる。
そうだ、母がこの家にはいる。私の部屋にいつでも出入り出来るんだ。
絶対仮病なんか使えないじゃん!
「……出る」
私は渋々パーティーに出ることを決意した。
シンプルイズベスト。
前までよく来ていたフリフリのロリータみたいな服装は全て質屋に出した。
そのお金でヴァイオリンの新しい弦を買った。弦が切れたあの時は本当に焦った。
お金がないのだ。ドレスを売るしかなかったのよね。
どうせ着ないドレスだし、クローゼットも片付いてお金も入る! 一石二鳥!
幸い、父はドレスならいくらでも買ってくれる。
「私、お嬢様ほど綺麗な方に会ったことないです。近頃のお嬢様は本当にどんどん磨かれて美しくなっています」
エミーは目をキラキラさせながら私をじっと見つめる。
まじなトーンで言われると、まじで照れる。……という褒められたら全く語彙力のない女になってしまう。
鏡で自分の姿を確認する。
キュッと髪を耳当たりの所で一つに縛り、ハイネックノンスリーブのシンプルな夜空のようなドレス。
我ながら素敵だと思う。輝くダイヤモンドで出来たこのピアスがアクセントになっている。
最後にエミーに妖艶な香水を軽くかけてもらう。
夜は少し大人っぽくしたい。まぁ、でも私が大人っぽくしたところで何も変わらないか。
王子はヘレナ。他の攻略対象者達もヘレナ。町の皆もヘレナ。……ということは、私もヘレナ!?
いや、それは無い。仮に女の子に惚れることはあっても、ヘレナに惚れることはないと思う。
……こんなあからさまにじろじろ見られると息が詰まる。
前のお茶会の時も見られたけど、その時と状況が全く違う。
舞踏会は子どもだけが集まってワイワイする会じゃない。年齢関係なしに貴族が集まる。
「なんてお美しいのかしら」
「キャシー様ってあんな方でした? 私思わず釘付けになってしまいましたわ」
「これは、なんと月の王女のようだ」
「どんなお手入れをしたらあんな瑞々しいお肌になるのかしら」
「これまた随分と雰囲気が変わられた」
私がパーティーの中に混ざるなり、色々な声が飛び交う。
悪役令嬢がヒロインと等しく与えられたものって容姿ぐらいじゃないのか、と実感する。
両親までも私に見惚れているってやばくない?
皆のその期待を裏切って悪いけど、私見た目と中身のギャップが最悪だよ。




