43.
ヘレナが授業に戻り、王子と二人きりになる。
……王子は授業ないのかな。
「そういや、ここまで何で来たんだ?」
「馬」
あ、普通に答えてしまった。
『ウマ?』
「を使った車です」
「馬に乗ってきたのか?」
「そんなわけないじゃないですか。私、令嬢ですよ?」
顔を引きつることもなく、あまりにもすんなり答える私に王子は少し戸惑う。
『キャシーは、前まで表情で何考えているか分かったのに、最近は全く分からない』
誉め言葉として受け取ります。
仮に馬に乗っていることがバレても王子なら黙っててくれそうな気もするけどさ。やっぱりここは念には念をだよね。
「家まで送る」
だ! か! ら! 授業は!?
王子の権利そんな乱暴に使っていいんっすか? というか、王子は優秀だから、授業を受けなくてもオッケーなの?
「いいえ、結構です」
『少し前のこいつなら絶対飛びついただろうな』
それは間違いない。
前までの私ならそんなお誘い、御者を殺してでも飛びついただろう。てか、王子にそんなこと言われたの初めてだ。
「じゃあ、俺がお前のとこの御者と話をしてやる」
「け、結構です! 私、御者と仲が良いので一緒に帰りたいんですよ。それに王子は忙しいと思うし」
『……御者と仲が良い?』
王子は怪訝な表情で私を見つめる。
あ、これバレるやつじゃない? フラグ立ったわ。
「馬車はどこにある?」
「捨ててきました」
『それは無理があるだろ』
「ですよね」
「は?」
今日はダメな日だ! 私コンディション悪い!
つい心の声に返答しちゃった。何があってもこれだけは気をつけようと思っていたことなのに!
「あの、私、そろそろ帰ってもいいですか?」
「まだ話の途中だろ」
「勝手に一人で話してて下さい」
「俺にイカれろって言ってんのか」
「違いますよ、独り言の練習です。いつとは言えませんが、いつか役に立ちますよ」
私は席を立ち、そのまま扉の方へ向かう。
扉を開けようとした瞬間、後ろから、バンッと片手が伸びてきた。
え、ホラー? これホラーゲームだっけ?
私のすぐ後ろで王子が呟く。
「待て。俺も行く」
「授業出ろよ」
やっば、ついノリで王子にとんでもない口調を……。私首切られる? ギロチン? 打首?
『おもしれえ』
背筋にゾクッと悪寒が走る。
私はそのまま勢いに任せて、無理くり部屋を飛び出す。
廊下は走っちゃいけないか、何か知らないけど今は緊急事態だから許して!
「おい!」
私が少し走ったところで王子が私に大きな声で叫ぶ。
え、やっぱり生徒会長だから廊下走るなってちゃんと注意するの!?
「いつその王子呼びをやめるんだ」
……さぁ。そんなの私に言われても分からん。まぁ、今だけいっか。特別サービスだよ。
「またね、アダム」
そう言って、王子に微笑んだ。
彼が目を丸くして、固まる。
『……なんだ、何俺今キュンってしたんだ? キャシー相手にあり得ないだろ』
キュンってしたのか、王子。てか、最後の何気に失礼じゃね。




