42.
「単刀直入に言うわね、町に行ってとある女の子を助けて欲しいの」
王子のプライベートルームで紅茶を片手に私は真っ直ぐヘレナの顔を見る。
この部屋にはヘレナと王子と私だけしかいない。
ヘレナが部屋に入る前にヴァイオリンを隠せて良かった。ヘレナって何にでも好奇心旺盛だから絶対あれこれつっこまれると思う。
「話が飛躍しすぎてよく分からないわ」
「ある女の子が病気でヘレナの治癒魔法でしか治せないと思うの」
『町へ行ったのか?』
「町へ行ったの?」
ヒロインと同じ思考回路なのかよ。
「行ってないわよ」
私はさらっと平気で嘘をつく。
ヘレナは、こんな自然に嘘をつくなんて出来ないんだろうな、とか少し思ってしまう。
「侍女から聞いたのよ」
「どうして私なの?」
「貴女は特別だから。……それに、ヘレナならその子以外にも沢山救ってあげれると思うし」
なんたって、ヘレナはヒロインだからね。
ヘレナは私の言葉に真剣に考える。
『貴族が町に子ども助けに出向くなんて話聞いたことないぞ』
私も聞いたことない。けど、ヘレナは行くよ。
「私、その子を助けたいわ。いいえ、それ以外の病気の子達も」
「ヘレナ、よく考えろ。もしかしたら病気が移るかもしれない」
「けど、私の治癒魔法でその子を治せるのなら構わない。きっと私はその為に魔法が使えるのよ。私が特別なのはきっとその理由だわ」
凄い、こんなに模範解答がポンポンと出せるんだ。ヒロイン試験全国一位じゃん。
「だが、危険だ」
「今魔法を使わなくて、いつ使うのよ!」
「まず、お前の治癒魔法は完璧じゃないだろ」
え、あ、そうなの!?
……そう言えば、そうだった気がする。治癒魔法を習得するまで随分かかったような。
もしかして、それが特別レッスン?
「習得にどれくらいかかりそうなの?」
『俺がヘレナを説得しようとさせているのに、こいつは』
苛立った声が聞こえる。
「じゃあ、王子が来ます?」
「お前、治癒魔法がどれくらい稀有な魔法なのか知っているのか? 特別レッスンが行われるぐらいだ。ヘレナしか使えない」
まじか、そんなにレアなのか。流石ヒロインとしか言いようがない。私も魔法使いたいよ。
何故私は悪役令嬢に転生したんだろうか。前世で冷蔵庫にあった弟のプリンを黙って食べたからかな? それとも、ふざけて彼氏の爪にマニキュアを塗ったから?
……悪行しか積んでないじゃん、私。
ヘレナは覚悟を決めた表情ではっきりと言葉を発する。
「私、必ず近いうちに魔法を習得して、皆を助けるわ」
「……ヘレナならそう言うと思ったよ」
王子はそう言って優しくヘレナに笑いかける。
へいへい、お熱いことですね。非リアには残酷だ。
私も彼氏欲しいいいいぃぃぃ!




