41.
「メリ、そろそろキャシーから離れろ。皆忙しいんだ」
オスカーは諭すようにメリッサにそう言った。
それでもメリッサは断固として言うことを聞かない。
ちっさい子ってみんなこんな感じだよね。自分のことしか見えてない…………ついこないだまでの私じゃん!
「や~だ~~!」
「メリッサ、また今度遊そぼ」
「……本当に? 本当の本当に?」
メリッサは少し納得のいかない表情を浮かべながら私に顔を近づける。
「うん、約束する」
「またお話してくれる?」
「もちろんよ。だから、今日はもうお兄ちゃんのところに戻ろ?」
私がそう言うと、素直にメリッサは頷いた。
こんな素直な時期、私にはあったのだろうか。なんて愛らしい。これが俗に言う胸キュン。
メリッサをオスカーに渡すと、王子が私の方へ近づいて来る。
これは、心の声が聞こえなくても分かる。……怒ってる。
「勝手にいなくなるな」
『なんで俺がキャシーにこんなに心を乱されないといけないんだ』
悪役令嬢に心を乱しちゃいけませんよ、王子。
というか、そんな台詞をヒロインの前で言っていいのか?
ヘレナの方をチラッと見る。何故か嬉しそう、というか、満足気だ。
私の王子は優しいでしょ? みたいな顔をしている。
……は? この鈍感ヒロイン! もっと危機感持って!
「おい、返事は?」
「分かりました」
『やけに素直だな』
多分、これはメリッサの素直さに影響された。
普段なら絶対に反抗してるはずだ。やっぱり子どもの力って凄い。子どもって大人を見習うけど、大人も子どもを見習わないとね。
「お姉しゃまも王子しゃまのこと好きなの?」
前言撤回。素直過ぎるのも駄目だわ。時には空気を読んで黙るっていう大人を見習って。
「お、おい、メリ、それは」
なんでオスカーが私に気を遣ってるんだろう。
「恋愛感情はないけど、人としては好きだよ」
『俺だって、こいつに恋愛感情はないが、はっきりそう言われると……なんか嫌だな』
欲張っちゃだめだよ、王子!
ヒロインからも愛されて悪役令嬢からも愛されるのは素敵な話だけど、どっちかは捨てられるんだからね。私、一夫多妻制は無理なんで。
「レンアイカンジョウ?」
「恋してるってこと」
「お姉しゃまは恋してないの?」
「そうなのよね~。恋とか暫くいいかも」
「なんで?」
……私にプライバシーは全く無いんだね。
子ども恐るべし。「なんで?」攻撃は子どもだから許される。王子にこんなこと言われたら、ぶん殴ってる。
「だって好き好きアピールしたところで興味ないとか言われちゃったらね~」
ニヤニヤと笑いながら、王子の方をチラッと見る。
昔の私なんて思い出したくもないぐらいどうしようもない奴だったけど、それでも私だ。否定は出来ない。あの黒歴史も受け入れるしかない。
『ああ、なんで俺はあんなことを言ったんだ』
王子、後悔してるんっすか……。
ちょっとからかってみただけなのに、まさかの想像してなかった反応だ。




