40.
「お姉しゃま、良い匂い~」
メリッサは嬉しそうな表情を浮かべながら笑う。
呑気で楽しそうでいいな。ようやく人だかりがあるところに来たのは良いけど、知っている人間が全くいない。
しかも私がちっさな子どもを抱いているから、この学園の生徒が容赦なくじろじろと私を見る。
ちょっとは遠慮しろ。前世は、見てみぬふりをするっていうのが常識の世界だったのに。
「メリッサ!」
どこからか突然、オスカーの声が聞こえる。
額に汗を流していることから、かなり必死に妹を探していたことが分かる。
ああ、もうイケメンだな! 写真撮ってSNSに載せても良い? ……盗撮で炎上間違いなしだな。
むしろ、炎上商法で私も有名になろうかな。……駄目だ、思考がクズだ、私。
「お兄しゃま!」
パッと私の腕の中でメリッサの顔が明るくなる。
うう、可愛い。何、もっちもちのほっぺたは……。食べたいわ。
「これじゃあ、私変質者じゃん」
ボソッと小声で呟く。
「ん? お姉しゃま、今何か言った?」
「ううん何でも」
ニコッと彼女に微笑んで誤魔化す。
オスカーの後ろには、いつものメンバーがいた。
ああああ! ヘレナがいる! 君のことを探していたんだ!
『何、嬉しそうな顔してるんだ。急にいなくなったこっちの身にもなれ。俺がどれだけ心配したと思ってるんだ』
はい、これから学園内にいる時は、王子に無断でどこかに行くのはやめます。
言い訳を一つさせてもらうなら、私もまさかこんなに道に迷うとは思わなかった。たかが学園だと思ったけど、されど学園だったわ。
「王子しゃまだ」
メリッサは目を宝石のようにキラキラさせながら、王子の方を見る。
あ、そっか。メリッサは王子に会いに来たんだもんね。
『王子って俺の事か?』
そう、あんたのことだよ。
「キャシーがメリを見つけてくれたのか? 有難う」
オスカーにお礼を言われる日がくるとは……。あんなに私のことを冷たい目で見てたのにね。
「楽しかったから、こちらこそ有難う」
私はそう言いながら、メリッサをオスカーに渡そうとした。その瞬間、メリッサが私の首元にギュッとしがみついた。
「いや~~! メリッサ、おねえしゃまと離れたくない!」
私も離れたくない!
こんな可愛い子に力強く抱きしめられたら、誰でもそう思うよね。
「……メリがこんな風になるなんて。人にあんまり懐かない子なのに」
まじかよ。
オスカーの言葉に耳を疑う。
『子どもに懐かれるような人間だったか?』
前までのキャシーは子どもなんか大っ嫌いだったよね。絶対に関わりたくないって思っていた。
何を考えているか分からない子どもを一番と苦手としていた、それとは対照的に、ヒロインは子どもが好きでどんな子どもからも懐かれてたんだっけ。
じゃあ、メリッサもいつかヘレナにとられるのか……。
切な過ぎるううぅぅ。今のうちにいっぱい抱きしめておこう。




