4.
『知っていたのなら、何故とっとと婚約破棄の話をしなかったのだ? それに、何故か今日のキャシーはいつものキャシーじゃない気がする』
心の声がだだ漏れって滅茶苦茶恥ずかしいな。
「女の悪あがきです」
苦笑しながら私はそう言った。
その様子に、王子だけでなくエミーも驚いている。
あ、もう、あの王子の「興味ない」発言の一言で人格も変わってしまったことにしよう。
十六年間積み上げてきた私のキャラが崩壊の日だ。記念日ということで、焼き肉食べたい。
「これが最後のお茶会ですね」
「……まだ最後と決まったわけでは」
「婚約破棄された令嬢の元へまだ通っていたら王子としてまずいのでは?」
「それはそうだが」
生まれて初めて王子の困惑した表情を見た。
私と一緒にいた時はほぼ無表情だったからな。ヒロインといるときは、あんなとろけるチーズのようなどろどろの甘い顔なさるのに……っていうのは誇張し過ぎたか。
けど、ヘレナといる時の王子は楽しそうな顔をしている。
「それにしても、こんなびっくりするほど楽しくないお茶会に毎度足を運ぶなんて王子もなかなか忍耐強いお方ですね」
ヒロインが好きでも、ちゃんと婚約者をないがしろにしないのは、さすが王子ね。
『……自分で言うか? 思わず笑いそうになった。キャシーってこんな面白い女だったか?』
え、笑いそうになってたんだ。全然分からん。せめて眉一つぐらい動かしてくれ。
「お嬢様、もう一度考えなさってください」
エミーが近づいてきて、私の耳元で小声でそう言う。
もう一度考え直すたって、今のうちに婚約破棄しとく方が絶対に良い。バッドエンドは回避したい。この先誰も私と結婚してくれなくても命があればそれでいい。
「幼少期に親が勝手に決めた婚約から解放されるんだから、今夜はパーティーでも開いてください」
「……俺は一度も婚約破棄したいなんて言ってないぞ」
「は?」
いやいや、さっき言ってたじゃん。心の中で。
心の声を口に出していなかっただけで、王子も婚約破棄を願ってる。それなのに、いきなりのその爆弾発言はなんっすか。
もしかして、私をキープしたいとか?
いつからそんなたらし王子になったんだよ。一途王子どこに行ったんだよ。
『ヘレナを思っていることに変わりはないが、もう少しこいつを見てみたい』
うるせえよ、王子。
私なんて早く捨てなはれ。王子と関わったら、比例してバッドエンドが近づいてくるんだよ。
「えっと、結婚は我慢。妥協が必要です。老後も一緒に過ごす相手はよく見て考えましょう」
「一緒に過ごす相手としてキャシーも悪くないだろう」
王子はそう言って、にやりと笑う。
え? こんな策略家だったっけ? ていうか、今笑った!?
もっと純粋ボーイだと思っていた。
ぶっちゃけ、適当にやってた乙女ゲームだったから、キャラの性格は事細かく覚えていない。時々文章も飛ばしてたし……。
こんなことなら、ちゃんと読んどけば良かったああぁぁ!
乙女ゲームをしている皆さん、是非文章は丁寧に読みましょう。