38.迷子
私も魔法学園に通いたくなってきた。
こんな綺麗な校舎……維持費が半端なさそう。それを魔法がある人間は学費を払わずに通えるんだよね。
「せっこ」
勉強そんなに好きじゃないけど、ここなら頑張れそう。……最初だけかもしれないけど。
新入生って最初の数ヵ月はやる気で満ちてるよね。なんで途中からあんなに堕落していくんだろう。継続って難しいわ。
……秒で迷子だ。
いや、王子が迷子ってことにしておこう。それに、ここは校舎の中のどこかだから、迷子ではない。
右に行くべき? 左に行くべき? それとも真っ直ぐ?
いつの間にか人がすっかりいなくなってるし。もしかして、立ち入り禁止区域に踏み入れてしまった?
「うわあああああん」
突然の大きな鳴き声が耳に響く。耳がキーンッとする。
こんなところに子ども? 魔法学園って年齢制限ないっけ? それとも私同様迷子かな。
声がする方に足を進める。
木陰にツインテールをした小さな女の子が泣いているのが視界に入る。
「どうしたの?」
「うっうっうわあああん」
女の子は私の声に無反応で泣き続ける。どうしたら、落ち着くのか……。
というか、今、私彼女にとって知らない人だから不審者として通報される可能性が充分ある。
やっばい、泣き止ませないと。
「あっ!! ユニコーン!」
私は大声で何もないところを指差す。
「え?」
彼女はぴたりと泣くのをやめて、顔を上げる。
「あ、行っちゃった」
「ユニコーン!?」
可愛らしい声を上げてキラキラした丸い瞳を私の方に向ける。
これは幼い心を騙しているわけじゃない。ただ上手に操っているだけだ。
「どこッ! どこにいるの!?」
「もう見えないわ。きっと貴方の泣いている姿を心配して現れたのよ」
「えええええ! 見たかったよおおぉぉ!」
なんて分かりやすい落胆の仕方。こんなオーバーリアクションが許されるのは子どもだけだよね。
「また現れるかな?」
さっきまで泣いていたのが嘘みたい。
「ユニコーンは忙しいみたいだから、難しいかもね」
「そんなぁ……」
私は彼女と目線を合わせるようにしてその場にしゃがむ。
「貴方、名前は? 私はキャシー・キルトン」
「私の名前はメリッサ・マイズ、四さい!」
そう言って親指だけ閉じて、片手を大きくグイッと私に向ける。
四歳って表したいのかな? ……うん、可愛すぎる。これは、ギュって抱きしめてくなるわ。
自分で聞いててなんだけど、そんな簡単に個人情報を知らない人に教えちゃだめだよ。
「ここに何しに来たの?」
「本当はお兄しゃまと来たの。でもね、いなくなっちゃったの」
また目に涙を溜めながらスカートをギュッと掴む。
「大丈夫よ! 絶対に見つかるから!」
「ほんと?」
「なんたって、私達はユニコーンに見守られているからね」
私がそう言って笑うと、メリッサも私につられてか満面の笑みを浮かべる。
こういう時は安心感を与えるのが一番だ。
「よし、行こう!」
私はそう言って、メリッサと手を繋ぐ。そして、歩き始めた瞬間、重要なことに気付いた。
……そういや私も迷子だったわ。




