37.
色々と案内されて分かったけど、魔法学園はとてつもなく広い。
こんなとこ一人で入っていたら完全に迷子になっていただろうな。それぐらい迷路みたいな造りをしている。
道理でルイスがヒロインに会えないわけだ。
「こっから先は平民の教室がある」
王子はそう言って、長い渡り廊下を指差す。彼の指をたどり、奥の校舎の方へと目を向ける。
一体ここにはいくつ校舎があるんだよ。
「行きたいか?」
「え? なんで?」
「そういう顔をしてたから」
ルイスがあそこにいるのかなって考えていたとは言えない。
「いえ、他の場所へ行きましょう」
そう言って、出来るだけ早くその場を離れる。
こんなところでルイスに出くわして、昨日の話をされたら大変だ。
「王子~、ここでは魔法以外のことも学ぶんですか?」
「ああ、まぁ、経済のこととか色々学ぶな」
「楽しいですか?」
「なんだ、学びたいのか?」
『キャシーが学問に興味あるとは思えない』
おい。酷いよ、王子。
まぁ、実際そうだから言い返せないけど。というか、実際に声に出していない時点で言い返せないけど。
「いえ、聞いてみただけです」
『一体なんなんだ。こいつの考えていることはよく分からない』
その点、王子の考えていることはよく分かりますよ。なんたって、心の声が聞こえていますからね。
「アダム! 丁度いい所にいた!」
赤い髪を揺らしながらエディがこっちの方へ走って来る。
エディだけ? 攻略対象者だからって、皆がいつも一緒にいるとは限らないんだ。
「やっぱり、キャシーもいたんだ」
意味が分からず軽く首を傾げる。それに気付き、エディは説明し始める。
「キャシー様を見たって、学園内でかなり噂になっていたんだよ。しかも横には別に嫌がっている様子もない王子がいるってな」
エディ、割と失礼だな。
『……確かに、前までは一緒にいるのも嫌だったが、今は会話していて楽しい』
王子、あんたも失礼だね。
「私も誰かに女として見てもらいたいわ」
思わず本音をそのまま声に出てしまった。
二人ともきょとんとした表情をして私を見つめる。
やってしまった。どうにか数秒前に戻れないかな。……無理か。
「けど、キャシーはアダムの婚約者じゃないか」
何故かエディにフォローされる。
ヘレナとアダムが相思相愛なの知っててよくその台詞が言えたな。
「何言ってんの、王子にはヘレナがいるでしょ」
「そういや、俺になんの用事だ?」
私の言葉を無視するように王子はエディに話しかける。
「あ、ああ、ここをチェックして欲しくて」
エディが王子に書類を渡す。
王子は確かこの学園の生徒会長だったっけ? 本当に完璧なんだな……。
私、本当にいつかこの人の役に立てることなんて出来るのかな。急に自信がなくなってきたわ。
彼が書類に目を通している間、私は何をすればいいのだろう。
ちょっとその辺、ぶらついてもいいかな。そんなことを思いながら私は足を進めた。




