3.
「え」
私がまさかそんなことを言い出すとは思っていなかったのだろう。
彼は目を丸くして私を見つめる。
……なんだかんだで今、初めてちゃんと目が合った気がする。
そりゃ、幼少期はよく目を見て話していた……と思う。今思えば、王子は小さい頃から私と心の目は合わしてくれてなかったみたいだけど。
少しして、ヒロインが現れてからは、王子はメロメロメロリンだったからね。媚薬でも盛られたんかって思うぐらいに、皆がヒロインを好きになった。
それに私は嫉妬して、当たりがきつくなったというわけだ。
そりゃ、婚約者を一瞬で横取りされたらそうなるわ。しゃあない、女を怒らすと怖いぞ。前世で元カレに浮気された時なんか、ついネットでチェーンソーを買い物リストに入れちゃったもんな。
……やっぱり私、前前世は快楽殺人鬼だった説濃厚じゃん。
「婚約破棄したいのか?」
キャシーは我儘なクソ女だけど、性格が心底悪いってわけではなかった。
父からの溺愛が原因で、本当に友達にはなれない嫌われお嬢様だったけど、誰かに傷を負わせるような真似は出来ない。前世の記憶が戻った今の私なら全然出来るけど。
「お嬢様、ご返答なさって下さい」
根本的にとんでもない馬鹿だったんだよね……。どうせなら頭の良い賢いいじめかたをする悪役令嬢の方が良かった。
だって、大勢の前でヒロインを貶すなんて頭のネジ数本どころか、数十本飛んでる。
いや、でも陰口を言っていないだけまだましか。
「キャシー、聞こえてるか?」
「え、あ、ん?」
王子の少し苛立った声にハッと我に返る。
うわ、やっべ、完全に意識飛んでたわ。えっと、何の話してたっけ?
侍女のエミーが焦った様子で私を見ている。
「……キャシーも婚約破棄をしたかったのか?」
「そりゃ、王子がヘレナに思いを寄せているなんて一目瞭然でしたからね」
ヘレナとは、ヒロインのヘレナ・パーカーのことである。
彼女は別に平民というわけではない。乙女ゲームにしては少し珍しい、貴族のヒロインだ。
特別なことと言えば、女で唯一魔法を使える稀有な存在だということだ。この世界では男しか魔法が使えない。
なんとも不公平な世界だ。私も魔法を使いたい。正直王子の心の中なんてどうでもいい。むしろ、聞きたくない。私に何の需要もない。
この能力とヒロインの持っている魔法を交換できないかな。交換留学生みたいな感じで、交換能力とか無理?
「気付いていたのか」
あまり表情を顔に出さない王子が少し複雑そうな表情をする。