29.ルイスの家
この国の町は活気にあふれていて物凄い楽しそうだ。
けど、少し離れたところが……貧困地域になる。衛生管理が非常に悪く臭いも酷い。
治安を守るために、貧困地域と賑やかな町にはしっかりと境界線がある。太く分厚い門で区切られている。
この乙女ゲーム結構シビアじゃない?
前世ではもっとゆるゆるのゲームしてたつもりだったんだけど。
さっきチラッと見えたけど、痩せていて全体的に汚れた少年がこっちを見ていた。まるで私達を恨むような目をしていた。
この場所は改善されるんだっけ? 適当にやってたゲームだからちゃんと覚えていない。
私ってなんて馬鹿なんだろう。死んでこのゲームに転生されるって知ってたらもっとちゃんとゲームの内容を把握していたのに……。
「着いたぞ」
そう言って、ルイスは馬を止めた。
ここに来るまでの間、色々な人にじろじろと見られたのは女が乗馬していたからかな。これが噂になったら母に外出禁止を言われそう。
折角ヴァイオリンの練習出来ると思ったのに~!
「なんでそんなにげっそりしてるんだ?」
ルイスは私が馬から降りやすいように手を貸してくれる。
「いや、あんなにじろじろ見られたらね……」
「そりゃ、こんな別嬪な女、この町にいないからな。……俺が噂されそうだ」
「え、私?」
「それ以外いないだろ。あんたみたいな美女見たことねえよ」
「……そりゃどうも?」
確かに私、顔が整っているとは思うけど、そこまでじゃない気がする。
ルイスがそう思うのは、今の私は化粧もしているし、綺麗なものを着飾っているから。
というか、私にそんなことを思っちゃダメじゃん。これからヒロインと会うのに……。
ルイスに連れてこられたのは、こじんまりとした木でできた一軒家だ。
清潔感があり、カントリー感が漂う。
「おふくろ~」
ルイスが家に入るなり、そう声を上げる。その声に反応して奥からルイスと同じ瞳の色をした穏やかな女性が出てくる。彼女は焦げ茶色の髪を緩く一つに束ねて、エプロンをしている。
優しそうなお母さんだな。……ルイスとあんまり似てない。
彼女は、私に気付くと、ハッとして私の元へ駆け足でやってくる。
「こんにちは。私は、ルイスの母のレイチェル・レオモンドです。あ、あの貴方のような綺麗なお嬢様がこんな狭苦しい所に」
「いえ、私、こういう落ち着く雰囲気の場所大好きです。心地いい家ですね」
焦るルイスの母を落ち着かせるように私はそう言った。
まぁ、一般家庭の家にいきなり私みたいな奴が登場したら驚くよね。
私の言葉で少し冷静になったのか、彼女はにこりと嬉しそうに微笑む。
「そう言っていただけて光栄です。有難うございます」
「いえ。あ、申し遅れました、私の名前はキャシーと申します」
「キャシー様、どうか私のことはレイとお呼び下さい」
「え、俺キャシーって呼んでるんだけど」
「もうっ、お嬢様になんて失礼な態度なの!」
「あ、大丈夫です。むしろその方がしっくりくるので」
「すみません」
レイがルイスの代わりに頭を下げる。
その様子がなんだか面白くて、私は思わず笑ってしまった。
なんだか温かい家族だな。




