27.
どこまで進めばいいんだろう。
けど、結構進んだよね。ここまで来たら誰もいないし思う存分練習出来る気がする。
空気も澄んでいて、木々の間から吹いてくる風が心地いい。
「ん~~、気持ちいい。いっそのことここに住みたいわ」
虫も好きだし、自分で料理も出来るから、父に頼んでここに小屋を建てて貰いたい。……また我儘だとか思われるかな。
私は、馬を止めて、その場にバッと降りる。思い切り上に手を伸ばす。
「ああ~最高っ!」
涼しくて、緑が綺麗だ。こういう場所でのヴァイオリンの音の響きってどんな感じなんだろう。
試したくてうずうずする。
ヴァイオリンを手にし、左肩に乗せる。
弓を持ち、音を出す。クラシック曲じゃなくて、今の気持ちをそのまま音に出す。
森の中で一人佇み、自由になりたいと願う少女の曲だ。即興曲は得意だ。いつでもどこでもヴァイオリンを弾くことが出来る。
自分の思いを音に変えて表現するということが大好きだった。作曲家の思いになって音を奏でることに夢中になり、ヴァイオリンの音を聞き、弾くことが私の全てだった。
それが私の核だ。
あんな形で突然やめて、それ以来ヴァイオリンに触れなかったことを心底後悔している。だが、もうこの世界では絶対に手放さない。
そんな思いを全て音に込める。
「誰だ?」
突然の言葉に私はヴァイオリンを弾く手を止める。声のする方に目を向ける。
近くにある一番大きな木の陰から人影が見える。身長が高いからすぐに見つけられる。
黒い髪に茶色の瞳……う~ん、どっかで見たことある。どこだろう。
「どっかで見たことあるってことは、きっとゲームに出てきたってことだよね」
「何だ?」
「いや、別に何も」
「さっきの曲、お前が弾いていたのか?」
「貴方が聞いた音がヴァイオリンの音だったら、私よ」
王子の心の声に慣れてしまったから、他の人の心の声も気になってしまう。心の声が聞こえるのが当たり前になりつつあるのって怖いな。これから王子と会う回数を減らすか。
「なぁ! 町へ来ないか?」
これは……ナンパ!?
ナンパされるのとか久しぶり過ぎて自己肯定感上がるわ。
……町ってことは、彼は平民ってこと?
平民、黒髪、茶色の目、高身長、なんか思い出しそう。絶対に見たわ。けど、ゲーム内のどこで見たか思い出せない。けど、彼はヒロインと関わりあったってことだよね?
「あのさ、ヘレナって知ってる?」
「俺の言ったことは無視か。……そんな名前の人間は知らない」
少し不機嫌な声で男は答える。
ヒロインとまだ会ったことなにのに、私が先に会っちゃって大丈夫なのかな。まぁ、けど平民の一人や二人と会ったところで特に話にズレはないか。
それに、現段階でヘレナと王子の仲は良好、さらに私はヘレナから全ての罪を許されている。
もう恐れることはない!
「うん! 行く! 町には行ってみたいって思ってたの」
明るい口調で私は彼にそう言った。




