26.我が家
家に戻ってきた!! それもヴァイオリンを手に入れて!
……待って、私の部屋防音じゃない。父に魔法を使ってもらうっていう手もあるけど、私がヴァイオリンを手に入れたことよく思わないだろうし。
使用人に頼む? いや、でも結局父にばれる。
何とか部屋までヴァイオリンケースを隠しながら運んだのに、意味ないじゃん!
「ん? 家で練習しなければいいんじゃない?」
なんと名案! というか、どうして最初からそのことを思いつかなかったんだろう。
馬にまたがり、どこかの森へ行こう。
……今思ったけど、ヴァイオリンが弾けることが一体何の役に立つんだろうか。
まぁ、皆にはヘレナという特別なヒロインがいるから私の出番なんてこれから先ないか。
とりあえず、弾こう。私の音を奏でる。
「エミー! 馬を用意して!」
部屋を出るなり、エミーにそう叫ぶ。エミーは驚きながらも、私の突然の奇妙な発言に慣れてきたのかすぐに返答する。
「馬? 馬車ではなく馬ですか?」
「うん。馬よ!」
「ですが、お嬢様、乗馬できるのですか?」
「そんなの……ノリと勢いよ!」
エミーが不安そうな顔で私を見る。
乗馬経験は一切ないけど、安心してエミー。なんとかなるよ。
絶対に乗馬には役に立たないだろうけど、私は前世で原付バイクの免許を取得している。乗馬免許も簡単に手に入れてやる! ……そんなのあるのか知らないけど。
「その根拠のない自信、尊敬致します」
「え、それ褒められてる?」
「勿論です」
なんて分かりやすい嘘の笑顔なんだ。
どこに行くのか、とエミー聞かれたから適当にはぐらかして、日が暮れる前には戻ると約束した。
両親にはばれるだろうけど、乗馬に関して怒られるだけなら別にいっかとか思ってしまう。まぁ、でもこの世界では令嬢は馬にまたがることはしないから、母にはこっぴどく説教されるだろうけど。
捨てようよ、固定概念、みたいなありきたりで面白くないキャッチフレーズを掲げて戦おう。
私はヴァイオリンケースを絶対に落とさないように、背中に背負う。
嬉しいことに、エミーは私がヴァイオリンを手に入れたことは両親には黙っていてくれている。
好きよ、エミー。段々彼女と私の絆が深くなっているような気がする。
「じゃあ、行ってきます」
馬にまたがり初めて自分の手で馬を走らせた。
私、それなりに乗りこなせてない?
早いスピードは出せないけど、コツを掴めば案外あっさり乗れる。
後は、余計なことをして馬を怒らせないだけだ。
栗毛のたてがみをそっと撫でる。
……もっとギシギシだと思っていたけど、思っていたよりもサラサラしている。良いトリートメント使っているんだろうな。
「馬よ、そっちじゃない。こっち」
そう言って、私は森の方向へ馬を走らす。馬もヒヒンと私の言っていることを理解しているのかしていないのかよく分からない返事をする。




