23.
「なんでキャシーがここでメイドなんかやってるんだい?」
オスカーがさっき私が注いだ紅茶を手に持ちながらそう言う。
今は、魔法の訓練が終わって休憩しているところだ。
「欲しいものがあって働かせてもらっているんです」
「へぇ、じゃあ、今度うちの家にも来てよ。金額は倍出すよ」
『は?』
「いえ、欲しいものはもう手に入れたので」
「実際ここでキャシーは上手くメイド出来てるのか?」
イーサンが私とオスカーの会話の後に、リノンの方を向く。
え、怖。いきなり皆の前でメイドの評価されるの?
星五でありますように!
「ちゃんと正直にね」
オスカーが私の不安をさらに増すようなことを付け足す。
リノンは少し固まったが、すぐに微笑んで話を始める。
「最初は仕事こなせるなんて思ってもいませんでしたが、そんな思いをしていた私が恥ずかしいぐらい立派な働きっぷりですよ。仕事の量は他のメイド達と変わらないのに、物凄い速さで終わらせてしまうんです。しかも、完璧に……いえ、完璧のより上かもしれません。それぐらい凄いんです。それにとても気さくで親しみやすく我々メイド達も皆驚きました」
王子以外、皆ポカンと口を開ける。
心の声が読めなくても、表情だけで何を考えているのか分かる。
きっと私がそんなに仕事を出来る人間だと思っていない、かつ、メイドに対して気さくな態度をとっていた私に驚愕しているって感じだよね。驚いた顔を見るのって案外楽しい。
「あのキャシーが?」
「いつも高圧的な態度を取っていたのに」
オスカーに続き、イーサンも目を見開きながらそう言う。
「一体どういう心境の変化なんだよ」
エディは苦笑する。
『確かにこれには俺も驚いた。あのメイド長もキャシーの働きっぷりには驚いていたからな。それに褒めていた』
「さっきから皆失礼よ。キャシーは心を入れ替えたのよ」
ヘレナが少し頬を膨らまして可愛い声でそう言う。
どういう表情をしたら男が可愛いと思うか知っている顔をしている。……これを素でやってしまうあたり凄いな。
友達になりたいとは思わないけど、こういうキャラの濃い子は大好きだ。まぁ、傍から見るだけがいいんだけど。
「心を入れ替えても、人ってこんなにすぐ変わる者なのか?」
イーサンが眉をひそめて、疑うような目で私を見る。緑色の瞳に私が映る。
「人間変わりたいって思ったらそれなりに努力するんじゃないですか?」
「なんでそんな他人事なんだ?」
「なんでそんなに他人事なんでしょうね」
私はそう言って、イーサンに微笑んだ。
「では、私はこれで失礼致します。あとは、ご貴族同士楽しい会話でもして下さい」
『お前も貴族だろ』
軽くお辞儀をして、部屋を去ろうとすると、オスカーが私に声をかけた。
「キャシー、やっぱり今度うちに来てよ」
からかっているのか、真面目に言っているのか分からない。
女たらしの人って二つに分かれるんだよね、単純で分かりやすいのか、心が読めずミステリアスなのか……。
オスカーの場合は後者だ。何を考えているのか分からない。
「気が向けば」
それだけ言い残し、部屋を離れた。




