22.
今日はメイド生活最終日だ。
ああ、ようやく終わる。かなり体力仕事だった。それにこの一週間はほとんど寝ていないから、体がクタクタだ。
防音だからって空いた時間は部屋に戻りずっとヴァイオリンの練習をしていた。ぶっちゃけ、その為に、掃除を早く終わらせたりもした。
私の掃除スキルは今回のメイドバイトで一気に上がった気がする。
腕が筋肉痛でプルプルする。けど、この一週間で体力は付いた気がする。絶対についた。
「よし、ラストファイトだ」
私は、気を引き締めて、部屋を出た。
「そこ、違うだろ」
聞き覚えのある声が芝生の広がった大きな庭から聞こえる。
声が聞こえる方に視線をやると、ヒロインと攻略対象達が楽しそうに魔法の訓練をしていた。
イーサンがふざけるエディに注意している。それをヘレナは優しい目で見つめている。
王子はとオスカーは何か真剣な話をしているみたいだし。
皆を見ていたら、美形しか入れないグループなのかな、と思ってしまう。
魔法が使える以外にも沢山の特技を持っている人間を間近で見たら、自分が米粒のようにちっさく感じてしまう。
白米は好きだけど、白米に例えられるのは嬉しくない。
私も何かしないとって焦る気持ちばっかりが募っていくんだよね……。
「キャシー様、どうかなさったのですか?」
リノン、いつまで敬語何だろう。
「ううん、何でもない。今日も頑張ろう~!」
私はそう言って、片手を上に大きく上げる。
「キャシー様はいつも元気ですね。他の使用人達からの驚きと感心と尊敬の眼差しが凄いですよ」
それ、褒められているんだよね?
リノンは嬉しそうな笑顔を私に向ける。
なんかよく分からないが、認められたのなら、それでいっか。否定されている感じはしなかったから、きっとこのままで良いってことだろう。
『今、こっちを見ていたような気がするが、気のせいか』
気のせいじゃないですよ。がっつり見てました。まぁ、教えてあげませんけどね。
「あ、キャシー!」
あんたは私に気付くな!
ヘレナが大きく私に手を振る。……これは、どうしたらいいのだろう。
使用人として対応するならお辞儀だけど、令嬢として対応するなら手を振り返した方が良い。
え、どっち? 正解はどっち?
『こっちに来ればいいのに』
王子は黙ってな。
「あの、リノン先輩、私どう反応するのがベストですか?」
「えっと、手を振る、で良いと思います」
少し困惑気味に答えたリノンの言葉に忠実に従い、私はヘレナに手を振った。
彼女は「うふふふ」と声を上げて嬉しそうに笑う。
何で、攻略対象者達は私とヘレナが仲良くしているところを見ると、デレデレした目でヘレナのことを見つめるのだろう。
性格の悪い女とも仲良くする心の優しい女の子に胸が熱くなるとか……?
男の考えていることはよく分からない。




