21.
深く息を吸って、コンコンッと扉を叩く。返事が返ってこない。
これは勝手に入っていいのかな。王子の部屋に勝手に入ってもし怒られたら、私は婚約者だからと威張ろう。
「入ります」
そう言って、扉を開ける。朝食の準備が入ったカートを押しながら、部屋に入る。
……でかッ。王子クラスともなるとこんな大きな部屋で寝ているんだ。
窓から差し込む太陽光が王子の顔に当たる。
ゆっくりと気持ちよさそうに寝ている王子の所に近付く。
なんて綺麗な寝顔……。寝ている顔がもっと不細工ならからかえるのに。てか、睫毛長。
「人の寝こみを襲うのか?」
私が顔を近づけると、王子がパッと目を開いた。透き通った青色の瞳が私をじっと見つめる。
「うわっ」
起きてたのかよ。てか、なんで上半身裸!? 服着て寝ろよ!
『顔真っ赤だ』
そりゃ、そんな素晴らしい肉体美見せて貰ったら顔の一つや二つ赤くなるわよ。王子のくせに腹筋割れてるとかせこくない?
「起きてたらなら起きてるって言ってください!」
「どういう反応するか見たくてな」
『ぐっすり寝れたことなんてないしな』
なに笑ってんだよって言おうと思ったけど、心の声を聞いたらちょっと躊躇ってしまう。
「朝食お持ちいたしました」
「昨日から思ってたけど、キャシーのメイド姿悪くないな」
「寝言は寝て言え」
満面の笑みを王子に向ける。
『こいつ、とうとう本性見せてきたな。……いや、これが本性なのか?』
もっと戸惑って下さい、王子。私のアイデンティティは何かと考えた時に、普通のJKじゃんってなったら合格です。
こいつただの自己中な悪役令嬢じゃんってなったら不合格です。
「なんか、眠そうだな」
「寝不足です。……あ、でも仕事はちゃんとぬかりなくしますよ」
「無理するなよ」
「あの、失礼かもしれないですけど、王子が優しくてちょっとキモいです」
「本当失礼だな」
『女にキモいなんて言われたの初めてだ』
王子の顔が引きつる。
こんなに美形で出来ないことはない王子に誰もキモいなんて言わないよね。……いや、でも完璧すぎてキモいって言われてるかもしれない。
キモいって誉め言葉にもなるあたり厄介だよね。キモカワいいとか言うし。
「あ、そうだ!」
「何だ?」
「ヴァイオリン、有難うございました」
昨日王子に会ったのに、言い忘れていたんだよな。
「ああ。お礼は雑巾だったけどな」
「げッ、人が記憶から抹消しようとしていることを」
「忘れんな。覚えておけ。婚約者の顔に雑巾を投げつけたことを頭に刻んでおけ」
「婚約破棄ですか?」
「なんでお前はそんなに婚約破棄したいんだよ」
『……まぁ、俺もそろそろ覚悟決めないとな。このままだとヘレナに失礼だし』
うん? 何で今私ちょっと傷ついたんだ?
王子がヒロイン選ぶなんて当たり前だ。そうなるように出来ている。
私の目的は、バッドエンド回避だ。自ら王子を手放すんだ。私から振るのよ!




