17.
「えっと、先に聞いておきたいんだけど、何するの?」
恐る恐る聞く。
奴隷のように扱われたらどうしよう。……いや、それでもヴァイオリンの為に頑張るけど。
「……そうだな、お前なんにも出来ないだろ?」
『散々甘やかされたお嬢様が出来る仕事なんてないよな』
なにそれ! いや、確かにそう思うのはしょうがないけど、ムカつく。
「なんでも出来るわよ!」
「威勢だけよくてもな」
「王子ってクソ性格悪いとか言われません?」
「お嬢様、言葉遣いが……」
「キャシー・キルトン、なんだってやってやるわよ!」
「ほう、それは楽しみだな」
王子は口の端を少しあげてニヤッと笑う。
まさかこんなに意地悪王子だと思わなかった。見た目詐欺だ……。
「じゃあ、住み込みでメイドはどうだ?」
『絶対無理だろうし、まず続かないだろうけど』
だから、心の声がもろ聞こえてるんですって!
「そうですか、やってやりますよ! あんまり私をなめないで下さいね」
『あのキャシーが使用人として働くことを快諾するとは……』
絶対役に立って、ぎゃふんと言わせてやる。
……そう言えば、王子は一体なんの用で私に会いに来たのだろう。
気付けば、私の話ばかりしていた。それに、ちゃっかり、いつものお茶会のようになっているし。
「王子はなんの用だったんですか?」
「ああ、すっかり忘れていた。これを渡そうと思って」
彼はポケットから小さなハンカチを取り出し、私に渡す。
ハンカチを受け取り、中身を確認する。
……なくしたお気に入りのブレスレットだ。どこでなくしたのか覚えていなくて、困っていたのよね。
「前の茶会で落としただろ」
「あ、有難うございます」
私はそう言って、頭を軽く下げる。それと同時に一つに疑問が頭に浮かぶ。
なんで王子直々に渡しに来てくれたんだろう?
「どういう心境で」
『少し様子を見にくるための口実でもあるしな』
あ、まじか。
てか、王子にこの質問しても意味ないか。どうせ心の声聞こえるもん。
もしかして、私そこまで王子に嫌われてなくない?
ゲームの中のキャシーはかなり酷い扱いを受けていたけど、私、今普通に会話しているし。いつのまにか状況が良くなっているような気がする。
このままいけば、私は国外追放にも死刑にもならないのでは?
平穏無事に余生を過ごすことが出来る。
『……黒く艶やかで綺麗な髪だな。こいつに初めてあった時、一目惚れだったな。まぁ、まさかあんな性格の奴だとは思わなかったけど』
は!?? え、はああぁぁぁ?
待って、王子、私に一目惚れだったの? 私、そんな情報一切知らないんだけど。
最初から嫌われていると思っていたわ。
けど、確かに、考えてみればそうだよね、ヘレナとは幼い頃からお茶会で会っているのに、夢中ってわけじゃなかったもんね。
いや、でもさ、まさか私に惚れてるとは思わないよ。誰も思わないよ。ノーバディーノーズだよ。キャシー驚きだよ。