15.
「なんの御用ですか?」
『なんちゅう顔してるんだ、こいつ。俺が来るのがそんなに迷惑なのかよ』
私は机に頬杖を突きながら、王子の方を見る。
今までどんなに誘ってもこの家にはお茶会以外自らくることなんてなかったのに、一体どういう風の吹き回しなのよ。
後ろからエミーの「頬杖はやめてください」という圧を背中で感じる。
もういいのよ、私のキャラはほとんど崩壊しているの。今更王子に良い所を見せても女として見てもらえない。
だったら、とことん女を落としてやる! ……王子の前だけ。
「あ、もしかして婚約破棄ですか?」
『どうしてこいつはそんな話を嬉しそうに言うんだ』
「違う。今日は別件だ」
「いえ、違いません。私の話を聞いて下さい。王子は中途半端なんですよ!」
「は? 中途半端?」
「良いですか。私も王子の役に立てるように頑張ろうと思っているんですよ。なので、ここはスッキリキッパリハッキリさせて下さい。王子はヘレナのことが好きなんでよね?」
『……キャシーが俺の役に立ちたいのか?』
聞くのはそっちじゃない。
てか、そのために私をキープしてるんじゃないの?
「良いですか? 女を両方手に入れようなんて考えないでください。そんな男願い下げです」
王子が目をパチクリさせて私を見る。
勢いに任せてあまりにも一気に話し過ぎた。
「お嬢様、この国は一夫多妻制なので、アダム様が妃を二人娶ることはできます」
エミーが静かにそう言った。
え? 一夫多妻制? なにそれ、知らなない。
乙女ゲームの説明書に書いてあったっけ? 読んでないから分かんないけど。
「嘘でしょ。もしかして、王子……」
『こいつ、おもしれえな』
「私、一夫多妻制とか嫌ですよ。郷に入っては郷に従えでも、無理なことは無理です」
「話が飛躍し過ぎていないか? 俺は妃は一人と決めている。たった一人の女を生涯愛しぬく」
「良い話ですね」
私が少し感動しながらそう言うと、王子は顔を引きつる。
「なんでそんな他人事なんだ?」
「その妃がヘレナですよね?」
「まだ決まっていない」
「あ~、もう! そういう所が中途半端なんです!」
『俺は本当にヘレナと結婚するのか?』
なんで今になって急に展開が変わろうとしているの?
悪役令嬢なんかに未練なんてないでしょ! キャシー・キルトンとの婚約破棄記念って旗でも作って宴でも開きなよ!
「何を企んでいるんだ?」
「何も企んでいません。強いて言えば、今お金を稼ぐ為にどこかの貴族のメイドにでもなって働こうかなって思っているところですよ!」
イライラしながら話していると全て口から言葉が出てしまった。
……あ、やっちまった。これはエミーが両親に告げ口をして私が死ぬオチだ。