13.取り柄
さて、期待の星になろうと志したのは良いが、具体的な案が一つも思い浮かばない。
数日間、何をすればいいのか悩みに悩んで結局何もなかったなんて頭悪すぎだろ、自分。
ググりたい。期待の星になるためには、みたいな感じで……なんか宗教本出てきそうだな。やめとこ。てか、この世界スマホないし!
私は魔法は使えない凡人悪役令嬢だし……。
悪役令嬢ならさ、ヒロインと同等に魔法ぐらい使わせて欲しいんだけど。おい、運営!
前世で、レビューしとけば良かった。悪役令嬢にも魔力を与えたまえって。
「あ~あ、なにしよ」
ドサッと勢いよくベッド上に仰向けに寝転ぶ。
この世界には貴族が通う学校というものが存在しない。
そこが一番最悪なのだ。人と触れ合う機会が一気に減る。まぁ、それがこの乙女ゲームを好きな理由の一つでもあったんだけど。
学校がなければ、悪役令嬢と会う回数は少ないし、ゲームをどんどん進められる。障害が多いゲームはあんまり好きじゃない。暇つぶしでするゲームはすいすいとクリアしてしまいたい。
まぁ、魔法学園は存在するんだけど。だから、ヒロインと攻略対象者の距離は縮まる。
男だらけの中にポツンと美少女がいたらそりゃもうモテモテでしょうよ。他の女の子も絶対に嫉妬しているはずだ。
幸い、ヘレナの性格が良いってのがあるから嫉妬は最小限ですんでいるんだろうけど。
そう思ったらキャシーって本当に馬鹿だよね。心の中の声をそのまま口に出しているんだから。
王子と正反対だ。
「賢くなるって思ったけど、王子は天才でイーサンも頭良いし。剣術は男性にかなうわけない。……料理とか? それはヒロイン」
まじでない。私って取り柄なさすぎない?
前世の趣味はカフェで友達と駄弁る……っていうやつ以外だよね。
本当は私、天才ヴァイオリン少女と言われていた。
初めてヴァイオリニストを見た時になんてカッコいいんだろうと惚れこんで、親に滅茶苦茶おねだりをして買って貰った。
新品の傷一つない綺麗なヴァイオリンを手にした日から私はひたすら練習をし続けた。一日のほとんどを練習につぎ込み、みるみる上達していった。
日本で優勝したし、世界コンクールにも出て入賞もした……けど、高校に入ってから皆が遊んでいるのを見て、私も遊びたくなったのだ。
練習が苦痛に感じ、期待に応えるのがしんどくなり、重圧に耐えらえなくなって、彼氏を作ってヴァイオリンを弾かなくなった。
先生も私に呆れて離れていった。親は私がやめたいならやめていいと許してくれたけど、何故か罪悪感が残った。
……っていう楽しくない前世の過去がある。
何度か街中でオーケストラの音楽を聴くたびに指が自然に動いたし、心が躍った。もう一度弾きたいと思ったけど、時間が経つにつれヴァイオリンに触れるのが怖くなった。
そんなことうじうじとうじ虫みたいに悩んでいないで、触りたきゃ触って弾けばいいと思うかもしれないけど、それが結構難しい。
音楽が好きだし、今の私にはもう一度音楽の世界に没頭するぐらいしか道はない。
今までもこれから先も私にはヴァイオリン以上にのめり込めるものは現れない。
「弾くんだ、私。練習するのよ」
ベッドから勢いよく立ち上がり、父のいるところへ駆け出した。




