12.
「キャシー! どこにいるの~」
ヘレナの高い声が耳に響く。
「呼ばれていますね」
「呼ばれています」
一体、ヘレナが私に何の用なのだ。今まで私を呼んだことなど一度もなかった。
「行かないのですか?」
不思議そうにジノが私の方を見つめる。
行きたくなくても行かないとだめだよね。あのまま名前を呼ばれ続けるのは恥ずかしい。
迷子センターに呼び出しをくらった子どもの気分だ。早くその放送を止めてくれ!
「行くよ。じゃあ、またね」
そう言って、彼の頭を軽くポンッと叩いた。
「……また、か」
ジノが何か呟いたようだが、なんて言ったのか聞き取れなかった。
「あ、いたいた!」
私を見つけてヘレナは嬉しそうに手を振る。
迷った子犬を見つけた飼い主の顔だな。……彼女の距離感がマジで分からない。
「どこ行ってたの~」
ヘレナが私の方に駆け寄ってくる。
「いきなりいなくなったから心配したよ」
『ヘレナに心配かけるなよ』
へいへい、悪かったね。
『まぁ、無事なら良かった』
おおおぉぉぉ!?
王子! 私のこと心配してくれてたの? あんなに私のこと嫌いなのに?
なんだかんだ言っていい奴なんだね。
「ごめんね」
「ううん、見つかって良かったよ」
なんで私が遭難してたみたいな感じなんだろう。
そんなキラキラした表情で見られると思わず目を閉じえてしまいそうになる。やっぱりサングラス必要だわ。
「もうお茶会は終わりだ。今日は来てくれて有難う」
今、イーサンが私に「有難う」って言った? 聞き間違いとかじゃないよね。
てか、イーサンとかもろに私を敵対視していたのに、何この変わりよう。逆に怖い。
ヒロインが許したら、周りの攻略対象者達も全然オッケーみたいなノリなの?
一人ぐらい「俺はお前を許さないからな」ってキャラいてもいいような気がするんだけど。
……まぁ、私、そんな生卵ぶつけるみたいな残酷な虐めはしてないもんね。
「こちらこそ有難うございました」
深くお辞儀をすると、イーサンはフッと優しく笑った。
「また来てよ」
「害虫駆除した方が良いですよ」
「害虫って?」
「私」
イーサンは一瞬固まったが、すぐに噴き出した。
「自分で害虫って言うのかよ」
「じゃあ、毒蛇にする?」
「いや、どっちでもないだろう」
彼はケラケラと楽しそうに笑う。イケメンの笑顔って世界に平和をもたらす気がする。
私の脳内にある物静かで賢い彼の印象が少しだけ壊れる。
『……面白くないな』
「アダム、どうしたの?」
ヘレナが王子の顔を覗き込む。
「いや、何でも」
彼はそう言って彼女に微笑み、頭を軽く撫でる。
イチャイチャするんだったら、この二人とっとと婚約すればいいのに……。
何故王子は未だに私を手元に置いておきたいのだろう。
いつか私が何かの役に立つとでも思っているのかな?
それなら尚更私なんて早く捨てた方が良い。今の私なんて何の役にも立たない。むしろ足手まといだ。
そうだ!! 私、王子にとって使える人間になろう!
中華そば始めました同様、使える人間始めました的な!
今まで散々迷惑かけたんだ。いつか駒として使ってもらえるように頑張ろう。目指せ期待の星!




