110 魔法学園からの手紙
また来るね、と言って、ジノの部屋を後にした。
今私が集中しないといけないことは、ヴァイオリン練習!
もっと演奏の精度を高めないといけない。私はもっと上にいかないと。
私は少し大股で廊下を歩き、父が用意してくれた練習部屋へと向かう。
「キャシーお嬢様!」
エミーに後ろから呼び止められ、足を止めて首だけ振り向いた。きっと、この感じは良くない知らせのような気がする。
首だけ振り向く私に少し戸惑いながらもエミーは落ち着いた様子で口を開く。
「魔法学園から手紙が来ております」
パードン? と言いたくなる気持ちをグッと抑えて、私は「魔法学園?」と聞き返した。
彼女はこくんと首を縦に振る。
「なんで魔法学園!? 私、魔法使えないの知ってるよね? 嫌がらせ? ヘレナと間違えられた?」
言いたいことを一気に言ってしまう。そうすることで少し気持ちがスッキリする。
私は驚きのあまり、首だけでなく全身をクルッと回し、ヘレナの方を向く。
「中身を確認していないので、私もよく分かりません」
エミーから手紙を受け取り、私はまじまじとその手紙を見つめた。
本当にキャシー・キルトンと書かれている。送り主は学園長アレックス・フォスター。
え、めっちゃカッコいい名前じゃん。ファンタジー映画の主人公みたい。
宛先が自分だったことよりも学園長の名前に興奮してしまう。きっと、白髭が生えたヤサシイお爺さんで、低い声で「おはよう、キルトン君」とか言ってくれそう。
「お嬢様、手紙は外側ではなく中身を見るものです」
キャシーの冷静なツッコミに私は少し口を尖らせながら、封筒を開けて中身を取り出す。
お洒落な便箋だな、と思いながら手紙を読み始めた。
「なんだこれ」
驚きのあまり令嬢とは思えない発言をしてしまう。
エミーは不思議そうな表情で私を見つめる。私は彼女に手紙を返した。
内容は至ってシンプル。シンプルイズベストってこと? ……いや、でもこれはないでしょ。
「キャシー・キルトン様、学園に至急来てください」
エミーは手紙の内容を読み上げる。
……前世の高校時代、学校の放送で流れるような内容をわざわざ手紙にして送ってくるなんて、逆に律儀なのかもしれない。
けど理由も書かずに学園に呼び出すって一体どんな神経してるのよ! アレックス!
「これって絶対に行かないとダメなやつ?」
「学園長直々に来ているということは絶対に行かないといけませんね」
「そんなに偉いの? 学園長って」
公爵令嬢を手紙一つで呼び出せるなんて、国王並みの権力じゃない?
「魔法使いの最高峰ですから」
「え、ヘレナは?」
「彼女は特殊です」と、エミーは即答する。
エミーがちゃんと魔法学園の内情を知っていることに流石キルトン家の優秀なメイドだなと感心する。
「よく分かんないけど、凄い人なんだね」
「よく分かっていてください」
どうやらエミーが凄いのではなく、私が常識のない人間だけだったようだ。
今日行かないとダメかな? と声に出しかけたが、エミーからの「今すぐ行け」という圧力に負けて何も言えなかった。
私はしぶしぶ学園へと向かうことにした。




