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その言葉に私は少し考え込む。
確かにディランは鑑識眼を持っている気がする。そうじゃないと、大きな組織を指揮することなんて不可能。
……じゃあ、馬車での言葉は嘘だったってこと?
なんでわざわざ嘘なんてついたんだろう。……まぁ、そういう人だよね、ディランって。
自分が何を考えているかなんて、絶対に相手に悟らせない。悔しいけど、彼は本物だ。
はぁ、と思わずため息を吐いてしまう。
ディランも王子なら、彼の心の声も聞こえることが出来たらいいのに……。いや、それは、頭の中がうるさすぎるか。まともに会話が出来なくなっちゃう。
ヘレナと王子とディランが一緒にいる場所にいたら、私、逃げ出しちゃうかも。頭の中でずっと不協和音を奏でているオーケストラを聞いてるような気分になりそう。
「やばくて勝手な人ですが、皆から信頼されているんですよ」
ディランを尊敬している、ということがカールの瞳からよく伝わった。
人望があるんだ。……私とは大違い。確かに全然似てない。
「羨ましいわ」
私はディランの方へそっと視線を移す。
「キャシー様も元帥と一緒の立場にいると思います」
カールの言葉に反応して、彼の方をじっと見つめる。
今、凄いこと言わなかった? 私の聞き間違い?
「え、私が?」
「はい。人にはないものを持っていて、憧憬の対象となる人物です」
カールの穏やかな笑顔に私は思わずハグしたくなる。
アイラブユーよ、カール。お世辞でもそんなことを言えるなんて、本当にあのディランの部下なのかまだ疑っちゃうわ。
「ありがとう。でも、私、普通だと思うけど……」
「天才は皆そう言うんですよ。もちろん、自負している方もいらっしゃいますが」
カールは私のヴァイオリンを聞いたことがないはず。それなのに、どうしてそこまで確信をもって、私を天才だなんて言えるのだろう。
ディランと同じ、彼も人を見る目があるのかな。
「何を話してたんだ?」
王子とディランは話を済ませたのか、彼らは私達の方に来る。
ディランの言葉に「秘密です」とカールはにっこりと笑う。ディランは面白くなさそうに舌打ちをした。
「叔父上、それよりさっきの話をキャシーにして下さい」
王子はディランにそう言った。
……さっきの話? 私に関係ある話だったの?
「俺はもうすぐ帰国することになるが、一緒に来るか?」
ディランの言葉がすぐに理解出来ず、私はその場に固まった。
帰国? 一緒に来る? ……えええええ!!
「どゆこと!?」
私は思わず大きな声を出してしまう。私の声の音量にびっくりしたのか、彼らは少し顔をしかめる。
「うるさい奴だな。そんなに驚くようなことか?」
驚くことだよ、と素早く心の中で呟く。
そう言うのって、フィアンセにプロポーズする時にいうものじゃないの?
てか、王子はこんな提案を止めなかったの?
私は王子の方をじっと見つめた。




